
「紙と電子、いまどのくらいの割合なの?」という問いには、売上の構成比を1枚の面グラフに重ねるのが近道です。11年分の境界線がじわじわ上がっていく形を見ると、逆転が一気にではなく段階的に進んでいることが分かります。
紙の本と電子書籍の売上構成は、この11年で大きく入れ替わりつつあります。全国出版協会・出版科学研究所の確定値によれば、出版市場(紙+電子の推定販売金額)に占める電子の構成比は、統計を開始した2014年の6.6%から2025年の37.6%へ、11年で31.0ポイント上昇しました。紙の出版は2025年に9,647億円となり、1975年以来、約50年ぶりに1兆円を割り込んでいます。
本記事では、出版科学研究所『季刊 出版指標』2026年冬号(2026年1月26日発表・2025年確定値)などの一次情報をもとに、市場規模の推移・構成比の変化・紙の内訳・カテゴリ別の電子化率・完全な逆転の業界予測までを、複数の図解で整理します。なお本統計の紙は取次ルートのみ(出版社直販・直接取引を含まず)、電子は読者が支払った金額の推計(サブスクを含み、広告収入・電子図書館・電子ジャーナルを含まず)です。
紙の本と電子書籍、売上構成はどう変わってきたか?
電子の構成比は11年で6.6%から37.6%へ。完全な逆転は2029〜2030年頃の業界予測。
本記事は楓が調査・編集しています。掲載情報は執筆時点のものです。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
出版市場全体の推移|2014年から2025年への11年

市場の大きさそのものは、合計・紙・電子の3本の折れ線を同じ物差しに乗せると位置関係が一目で分かります。紙が下り、電子が上り、合計はほぼ横ばいという3本の角度の違いに注目してみてください。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
出版科学研究所が電子出版の統計を開始した2014年、出版市場は紙が1兆6,065億円、電子が1,144億円、合計1兆7,209億円でした。2025年は紙9,647億円、電子5,815億円、合計1兆5,462億円です。11年間で電子は約5倍に拡大し、紙は約6割の水準まで縮小しました。
合計で見ると、2019年の1兆5,432億円から2021年の1兆6,742億円まで一時的に拡大し、その後4年連続で縮小して2025年はコロナ禍前の2019年とほぼ同じ規模に戻っています。市場全体の規模はこの11年で約1割の縮小にとどまる一方、内側では紙から電子への置き換わりが大きく進みました。
2020年前後の拡大局面は、外出機会が減った時期の巣ごもり需要と重なります。電子出版は2020年に前年比28.0%増、2021年に18.6%増と大きく伸びたあと、2022年7.5%増、2023年6.7%増、2024年5.8%増、2025年2.7%増と、伸び率は年々小さくなっています。
構成比で見る紙と電子|6.6%から37.6%への上昇

金額の折れ線を構成比100%の面グラフに描き替えると、「市場のなかの陣取り」がそのまま面積になります。境界線が11年かけてどこまで上がってきたかを見る図です。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
紙+電子を100%とした構成比で見ると、電子は2014年の6.6%から、2018年16.1%、2020年24.3%、2022年30.7%と階段を上がるように増え、2025年に37.6%へ到達しました。紙と電子の構成比の差は、2014年の86.8ポイントから2025年には約25ポイントまで縮小しています(筆者試算)。
身近な金額に置き換えると、出版物に1,000円支払うとき、2025年はそのうち約376円が電子・約624円が紙という配分になります。11年前の2014年は約66円が電子・約934円が紙でした(構成比×1,000円の筆者試算)。1,000円のうち電子に向かう金額が、11年で約66円から約376円へ増えた計算です。
紙の内訳で見る5年|書籍の下げ止まりと週刊誌の縮小

「紙」とひとことで言っても、書籍・月刊誌・週刊誌では動き方がまったく違います。直近5年の3本の折れ線を並べると、傾きの差がそのまま構造の差になって見えてきます。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
紙の内訳を直近5年で見ると、書籍は2021年の6,804億円から2025年の5,939億円へ縮小したものの、2025年は前年比プラス2億円と4年ぶりの増加に転じ、返品率も31.9%へ改善しました。下半期にベストセラーが相次いだ年でもあります。
対照的なのが雑誌です。月刊誌(ムック・コミックスを含む)は2021年の4,451億円から2025年の3,195億円へ、週刊誌は825億円から513億円へ縮小しました。週刊誌は5年で約4割減となり、2025年には返品率が初めて5割を超えています。同じ「紙の縮小」でも、書籍の下げ止まりと週刊誌の急な縮小が同居している形です。
紙の縮小は、本を扱う書店の店舗数の推移とも重なる論点です。書店数の長期推移は、次の記事で図解しています。

コミック・書籍・雑誌の3分類|2022年の逆転

公式統計の「書籍」「雑誌」にはコミックが混ざっています。コミックを1つのカテゴリとして分離し直した3本の折れ線で見ると、市場の主役交代が1枚で分かります。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
出版市場をコミック・書籍(コミックを除く)・雑誌(コミックを除く)の3カテゴリに分類し直すと、2022年にコミックの占有率41.52%が書籍の40.97%を初めて上回りました。2025年はコミック44.8%・書籍39.9%・雑誌15.3%で、出版市場の半分近くをコミックが占めています。
2025年のコミック市場は6,925億円で、2017年以来8年ぶりのマイナス成長(前年比1.7%減)でした。紙のコミックス(単行本)は1,260億円(14.4%減)、コミック誌は392億円(12.7%減)と紙側の縮小が大きく、電子コミックは5,273億円(2.9%増)と伸びが続くものの、その伸び率は鈍化しています。
カテゴリ別の電子化率|進行度はカテゴリで大きく違う

「電子化がどこまで進んだか」をカテゴリごとに1本の物差しで測ってみます。電子÷(紙+電子)で計算した電子化率を100%スケールの横棒に並べると、進み方の差がそのまま棒の長さの差になります。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
カテゴリ内の電子÷(紙+電子)で電子化率を計算すると、コミックは5,273億円÷6,925億円で約76.1%、書籍(コミックを除く)は459億円÷6,173億円で約7.4%、雑誌(コミックを除く)は83億円÷2,364億円で約3.5%です(いずれも筆者試算)。
同じ「電子化」という言葉でも、コミックはすでに4分の3が電子である一方、文字ものの書籍は1割未満、雑誌は4%に届きません。紙から電子への置き換わりは市場全体で一様に進んでいるのではなく、進行度がカテゴリによって桁違いに異なっています。電子出版5,815億円の90.7%を電子コミックが占めるという内訳も、この偏りを裏づける数字です。
コミック市場そのものの規模や紙・電子の内訳の推移は、次の記事で詳しく図解しています。

完全な逆転はいつか|業界推計は2029〜2030年頃

実測の2本の線をそのまま先へ伸ばすと、交差する位置が見えてきます。破線はあくまで単純な外挿で、実線の実測値と区別して読むのがこの図の約束事です。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
紙業界の当事者である平和紙業(活版印刷研究所の連載コラム・2025年2月24日)は、これまでの進捗率をもとにしたシミュレーションとして「2029〜30年には、電子媒体が、紙媒体と逆転する予測」と記しています。図の破線は、直近3年(2022〜2025年)の年平均増減(紙が年548億円減・電子が年267億円増)をそのまま延長した筆者試算の単純外挿で、交差はおおむね2029〜2030年、7,000億円前後の水準になります。
ただし、この予測には上振れ・下振れの幅があります。2025年は電子側をけん引してきた電子コミックの伸びが前年比2.9%増まで鈍化した一方、紙の書籍は前年比プラスに転じました。電子の減速と紙の下げ止まりがこのまま続けば逆転は後ろへずれ、紙の雑誌の縮小が加速すれば前倒しになります。予測はあくまで業界推計の外挿であり、確定した将来ではありません。
紙からデジタルへの主役交代は、出版だけでなく映像の世界でも進んでいます。映画館と動画配信の市場を比べた次の記事も、同じ構図の類例として読めます。

楓のまとめ|逆転はカテゴリごとに違う速度で進んでいる

ここまでの6枚の図解を重ねると、「紙か電子か」という二択ではなく、カテゴリごとに違う速度の変化が同時に走っている姿が見えてきます。3つの観察事実に整理します。
「紙の本と電子書籍、売上構成はどう変わってきたか」という問いに対して、本記事の図解が示したのは、市場全体の緩やかな縮小と、その内側で進む構成の入れ替わりでした。優劣を判定するのではなく、数字が示す変化の形を観察事実として整理しておきます。
3つの観察事実を重ねると、紙と電子の関係は「全体としての置き換わり」と「カテゴリごとの速度差」の二層で動いていることが分かります。コミックでは逆転がすでに起きており、文字ものの書籍と雑誌ではまだ紙が大半を占めるという併存が、いまの出版市場の実像です。どのカテゴリの、どの期間の数字を見るかで、紙と電子の物語はまったく違って見えます。
よくある質問(FAQ)

紙と電子の統計を読むときは、集計範囲・カテゴリの分け方・予測と実測の区別の3点をセットで確認してください。この3点が変わるだけで、同じ数字の意味が変わります。
Q1. 電子書籍が紙を完全に追い抜くのはいつですか?
紙業界の当事者である平和紙業(活版印刷研究所・2025年2月24日)は、これまでの進捗率をもとに「2029〜30年には、電子媒体が、紙媒体と逆転する予測」としています。本記事の単純外挿(直近3年の年平均増減の延長・筆者試算)でも交差は2029〜2030年頃になります。ただし2025年は電子コミックの伸びが鈍化し、紙の書籍が下げ止まるなど前提が動いており、時期には幅があると読むのが安全です。
Q2. この統計に含まれない売上はありますか?
あります。出版科学研究所の紙の推定販売金額は取次ルートのみで、近年増えている出版社の直接販売や書店との直接取引は含まれません。電子は読者が支払った金額の推計で、サブスク(定額読み放題)は含む一方、広告収入・電子図書館・電子ジャーナルは含みません。インプレス総合研究所など他機関の推計と数値が異なるのは、この集計範囲の違いによるものです。
Q3. 紙の書籍はこのままなくなってしまうのですか?
少なくとも直近の数字は、一方向の消滅を示していません。紙の書籍は2025年に5,939億円と前年比プラス2億円で4年ぶりの増加となり、返品率も31.9%へ改善しました。一方で週刊誌は5年で約4割減と縮小が続きます。文字ものの書籍の電子化率は約7.4%(筆者試算)にとどまっており、「紙が消える」というより「カテゴリごとに違う速度で構成が変わっていく」というのが、現時点のデータから読み取れる姿です。
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