
鳥獣による農作物被害は、シカ・イノシシ・サル・クマの4獣種でどう推移してきたか。金額・被害量・地域差・人身被害・個体数管理という5つの切り口を、農林水産省と環境省の一次情報から、推移チャートと47都道府県タイルマップで一気に並べていきます。
鳥獣による農作物被害は、令和6年度(2024年度)で全国188億円となり、令和元年度の158億円から再び増加に転じました。農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和6年度)」によると、4獣種別ではシカ79億円・イノシシ45億円・サル7.7億円・クマ5.2億円で、シカが前年度比+9.0億円と増加を主導しています。平成22年度の239億円ピークからの減少局面が、令和元年度を底に反転した形です。
本記事では、農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況の推移」と環境省「クマ類による人身被害について」「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定」を一次情報源として、4獣種別の17年推移・47都道府県別のタイルマップ・クマ人身被害18年推移・シカイノシシ個体数推定の4軸を並べます。農作物被害は減ったり戻ったりしながらも、人身被害は別の動きをしており、令和7年度(速報値)には人身被害件数・死者ともに過去最多を更新しました。
鳥獣による農作物被害は、シカ・イノシシ・サル・クマの4獣種でどう推移してきたか?
令和6年度の全国農作物被害は188億円。平成22年度の239億円ピークから令和元年度158億円まで減少した後、再び増加に転じている。
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4獣種でどう変わったか|シカ・イノシシ・サル・クマの17年推移

金額の推移を縦軸に4獣種を並べると、ピーク・底・現在地がどこにあるかが一目で見渡せます。シカは2024年に2010年代前半の水準まで戻り、イノシシは反転、サルは長期減少、クマは2023年の突発が際立ちます。
4獣種の被害金額を17年並べると、シカが2010年代前半に高い水準で推移し、平成24年度(2012年)に82億円の単独ピークを記録した後、令和元年度の53億円まで減少しました。その後再び増加に転じ、令和6年度は79億円とほぼピーク水準に戻っています。シカ被害は北海道・東北・中部・四国・九州と広範囲に分布しており、増加分はこれらの地域で同時に進んでいる構造です。
イノシシは平成22年度の68億円をピークに、CSF(豚熱)の感染拡大もあり令和5年度の36億円まで減少局面が続きましたが、令和6年度は45億円と前年度比+8.2億円で反転しています。鳥獣計の被害金額が令和元年度の158億円から188億円まで戻ったのは、シカ+イノシシの2獣種で17億円分の増加が同時に発生したためです。
サルは平成22年度の18.5億円から令和6年度の7.7億円まで長期的に減少しました。一方クマは、令和4年度までは平均約4億円水準で推移していましたが、令和5年度に突如7.4億円に跳ねた後、令和6年度は5.2億円まで戻りました。クマの農作物被害額は4獣種で最も小さく、変動の方が目立つ獣種です。
金額の動きだけでは見えない|被害量で見るシカの過去最大規模

金額と被害量は、必ずしも同じ方向に動きません。被害量はそのまま「どれだけ食べられたか」の物理量。金額の見かけ以上に、令和6年度のシカ被害量は過去最大級に達しています。
同じ4獣種でも、被害量(単位:千t)で見ると景色が変わります。シカの被害量は、平成22年度に613千tを記録した後、令和3年度・令和4年度に380千t台まで減少していましたが、令和6年度は631千tと、過去最大級の水準に到達しました。金額(79億円)の見かけ以上に、物理的にはピーク年を上回る食害が発生しています。
イノシシ・サル・クマの被害量は、いずれもシカの10分の1以下の規模です。イノシシは令和3年度に23千tまで減少した後、令和6年度に26千tと小幅に反転。クマは令和5年度の29.6千tから令和6年度の32.9千tに増加し、農作物への食害量としてもじわじわと拡大しています。サルは長期的に減少基調で、令和6年度は3.5千tの水準でした。
金額は単価や被害作物の品目構成で変動するため、被害量と金額の両方を並べることで、農地にもたらされる物理的な負荷の大きさを把握できます。シカの被害量が過去最大級に達した令和6年度は、捕獲・防護柵の整備だけでは追いつかない圧力が現場に残されていることを示しています。
47都道府県別の被害金額|北海道が全国の37%を占める偏り

都道府県別に並べると、北海道が突出して大きく、続いて福岡・熊本などの九州勢、長野・愛知・茨城・千葉などの本州中部・関東も上位に並びます。5階層に色分けすることで、地域ごとの主役獣種が異なる構造を1枚で見渡せます。
令和6年度の都道府県別農作物被害金額は、北海道が69.5億円で突出しており、全国合計188億円の37%を占めます。北海道の被害は主にエゾシカ(65.5億円)で、これだけで全国のシカ被害79億円の8割を超えます。北海道を除く都府県計は118億円で、シカ・イノシシ・サル・クマ等の被害が47都府県で分担される構造です。
北海道に次ぐ上位5県は福岡(6.9億円)・熊本(6.8億円)・愛知(5.8億円)・長野(5.8億円)・鹿児島(5.4億円)。九州勢(福岡・熊本・鹿児島・宮崎・佐賀)はイノシシ被害が中心で、九州小計28億円のうちイノシシが14億円弱を占めます。中部の長野・愛知・岐阜・三重と関東の茨城・栃木・群馬・千葉も上位に並び、シカ・イノシシ・サル・カラスの複合的な被害が出ています。
一方、被害金額が少ない下位は秋田0.19億円・富山0.45億円・石川0.64億円・青森0.65億円・沖縄0.76億円の順で、北海道との差は最大360倍にもなります。下位の県は耕地面積が小さい、あるいは野生獣の生息地と農地の距離が確保されている地域が多く、同じ「47都道府県」と言っても、農作物被害の現場感は地域でまったく違うことが見て取れます。
農作物被害とは別の動き|クマによる人身被害の18年推移

クマの農作物被害は5.2億円と低水準ですが、人身被害は別の物語です。件数を棒グラフ、死亡者数を折れ線で重ねると、令和5年度と令和7年度に2回のピークが並びます。
環境省「クマ類による人身被害について [速報値]」によると、クマ類による人身被害件数は、平成20年度から令和4年度までおおむね年50〜145件の幅で推移してきました。しかし、令和5年度(2023年)に198件・被害人数219人・死亡者6人と当時の過去最多を記録し、メディアで「クマ被害元年」と呼ばれる年になりました。東北のドングリ凶作と人里への大量出没が背景として整理されています。
令和6年度(2024年)は速報値で82件・被害人数85人・死亡者3人と一度落ち着いた後、令和7年度(2025年)は速報値で216件・被害人数238人・死亡者13人と、件数・被害人数・死亡者のいずれも令和5年度を上回り、過去最多を更新しました(令和8年4月7日時点の速報値)。死者13人は環境省が統計を取り始めて以降で最も多い数字です。
農作物被害5.2億円(令和6年度)に対して、人身被害は単独の獣種を超えて社会的影響の大きい問題になっています。都道府県別では岩手・秋田・北海道が突出しており、令和7年度は岩手40件・秋田67件・北海道6件など、東北を中心に被害が集中しています。農作物被害の推移と人身被害の推移は、それぞれが別の指標として動いていることが、本図から読み取れます。
半減目標は達成されたのか|シカ・イノシシ個体数推定の進捗

農作物被害金額の推移と同時に、被害の発生源である個体数がどう動いてきたかを並べると、対策の進捗度が見えてきます。平成25年策定の「10年後までに半減」目標は、イノシシは順調に達成圏、シカは目標未達のまま再増加へと進んでいます。
環境省・農林水産省は、平成25年に「10年後(令和5年度)までに、ニホンジカとイノシシの個体数を半減する」目標を策定しました。環境省の個体数推定(中央値・本州以南)によると、ニホンジカは平成23年度の212万頭から平成27年度の298万頭まで増加し、その後の捕獲強化により令和元年度の189万頭まで減少しましたが、令和4年度は246万頭と再び増加し、半減目標(約106万頭)には到達していません。
一方、イノシシは平成23年度の120万頭から平成25年度の130万頭をピークに、CSF(豚熱)の流行と捕獲強化により減少局面が続き、令和4年度は78万頭と、半減目標(約60万頭)の達成圏まで近づきました。イノシシは個体数で約4割減を実現した一方、令和6年度の被害金額は45億円と前年度比+8.2億円で反転しているため、個体数管理と農作物被害は必ずしも同じ方向に進むわけではないことがわかります。
環境省は令和4年5月、シカ・イノシシの半減目標期限を令和5年度から令和10年度まで延長する方針を決定しました。シカは個体数の地域差・北海道のエゾシカ(推定約74万頭、別途算定)の影響もあり、令和10年度までの達成可否はまだ不透明な状況です。農作物被害の数字を読むときは、捕獲数や個体数の推移と合わせて見ることで、長期的な構造変化を立体的に捉えることができます。
令和6年度の鳥獣別内訳|4獣種で全体の72.5%を占める構成

鳥獣計188億円を9区分のドーナツに分解すると、4獣種(シカ・イノシシ・サル・クマ)が全体の何%を占めているかが直感的に把握できます。シカ+イノシシだけで全体の約66%、4獣種で約73%という構成です。
令和6年度の鳥獣計188億円を9区分に分けると、最大はシカ41.9%(78.5億円)、次いでイノシシ23.8%(44.6億円)、カラス7.3%(13.6億円)、ヒヨドリ4.3%(8.1億円)、サル4.1%(7.7億円)の順となります。シカ+イノシシの2獣種だけで全体の65.7%を占め、これに鳥類2区分(カラス・ヒヨドリ)を加えると80.8%に達します。
4獣種(シカ・イノシシ・サル・クマ)の合計は136億円で、鳥獣計188億円に対する比率は72.5%。残りの27.5%は鳥類(カラス・ヒヨドリ等)と他の獣類(アライグマ・ハクビシン等)で構成されます。アライグマは6.9億円(3.7%)・ハクビシン4.8億円(2.5%)と、外来種・準外来種の獣類による被害も無視できない規模です。
構成比で見ると、農作物被害対策はまずシカ・イノシシの2獣種への効率的な対応が重要だと示されますが、カラス・ヒヨドリ等の鳥類による被害(合計約22億円)と、アライグマ・ハクビシン等の中型獣による被害(合計約16億円)も、4獣種以外で4割近い規模を占めるため、鳥獣被害対策は4獣種だけの問題ではないことも、この内訳から読み取れます。
楓のまとめ|農作物被害と人身被害は別の動きをしている

ここまでの推移と地域差を一通り並べると、農作物被害と人身被害が別々に動いていることが、図解の対比で確認できます。3つの観察事実に整理してみます。
令和6年度の鳥獣による農作物被害188億円は、平成22年度の239億円ピークと令和元年度の158億円直近底の間に位置しており、長期では減少、短期では再増加という二重の動きを同時に抱えています。獣種別では4獣種が全体の72.5%を占めますが、そのうちシカ単独で41.9%。シカの動きが農作物被害全体の方向性を主導しています。
3つの観察事実を重ねて読むと、いまの鳥獣被害は「シカ主導で再増加する農作物被害」と「クマが牽引する過去最多の人身被害」という、2つの別々の現象が並行して進行している状態として整理できます。令和6年度の188億円という数字の意味は、長期では大幅減・短期では再増の二重の動きと、農作物と人身の指標が独立して動く構造を、同時に映しています。
よくある質問(FAQ)

鳥獣被害の数字を読むときは、農作物被害額と人身被害件数を別々に見ること、シカ・イノシシ・サル・クマで動きが違うことに注意してください。同じ獣種でも、農地と人里では指標がまったく別に動くことがあります。
Q1. 鳥獣による農作物被害は、減っているのですか、増えているのですか?
長期では大幅減、短期では再増、という二重の動きを同時に抱えています。鳥獣計の被害金額は、平成22年度の239億円ピークから令和元年度の158億円まで約34%減少しましたが、令和元年度を底に増加に転じ、令和6年度は188億円と前年度比+24億円の水準まで戻っています。獣種別ではシカが令和6年度に79億円と単独ピーク水準まで再増、イノシシは45億円で反転、サルは長期減少、クマは変動が大きい、と動きが分かれています。
Q2. シカとイノシシの個体数を半減する目標は、どこまで進みましたか?
環境省・農林水産省が平成25年に策定した「10年後(令和5年度)までに半減する」目標は、イノシシは平成23年度の120万頭から令和4年度の78万頭へと約4割減少し、半減目標(約60万頭)の達成圏に近づきました。ニホンジカは平成23年度の212万頭から令和4年度の246万頭へと、令和元年度の189万頭を一度経由した後で再び増加しており、半減目標(約106万頭)には到達していません。令和4年5月に環境省は、目標期限を令和5年度から令和10年度まで延長する方針を決定しました。
Q3. 令和7年度のクマによる人身被害が過去最多になった背景は何ですか?
環境省と専門家の整理では、複数の要因が同時に作用したものと考えられています。主要なものとして、堅果類(ドングリ・ブナ等)の凶作による山中の食料不足、クマの分布拡大、人口減少と耕作放棄による緩衝帯(人里と山の間の活動範囲)の消失、人馴れ個体の増加、などが挙げられます。本記事は事実の整理にとどめ、因果関係の断定はしません。令和7年度の216件・238人・死亡者13人(令和8年4月7日時点の速報値)という数字は、環境省が統計を開始した平成20年度以降で最も多い水準です。
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