
「戦後80年でどれだけ減ったのか」という問いには、1948年から最新の2025年まで、77年分の死者数を1枚の折れ線で並べるのが近道です。二度の交通戦争のピークと、2025年の最少更新を結ぶ波形が、戦後の交通安全政策の成果と限界を一度に見せてくれます。
戦後の日本の交通事故死者数は、1970年(昭和45年)の16,765人をピークに、長期的な減少を続けてきました。警察庁の交通統計によれば、2025年(令和7年)の死者数は2,547人で、1948年の統計開始以来、最少を更新しています。ピークと比べると約6.6分の1、削減率にしておよそ85%です。一方、第11次交通安全基本計画が掲げた「2025年までに死者数2,000人以下」という政府目標は達成できず、死者数は過去最少を更新しつつ、政府目標の到達には届かなかったのが、戦後80年の交通事故をめぐる現状です。
本記事では、警察庁の令和7年中の交通事故死者数(令和8年1月6日発表)、内閣府の令和7年交通安全白書、e-Statの都道府県別データなどの一次情報を、戦後77年の推移チャート・状態別構成・47都道府県タイルマップ・高齢者比率の長期推移・計画別の目標と実績といった複数の図解で整理します。長期トレンドと地域差・年齢層別構成の両方を別の角度から重ねることで、「戦後80年で死者数はどれだけ減り、何が残ったのか」を観察していきます。
戦後80年で交通事故死者数はどれだけ減ったのか?
1970年16,765人のピークから2025年は2,547人。約6.6分の1まで減少した。
本記事は楓が調査・編集しています。掲載情報は執筆時点のものです。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
1970年16,765人から2025年2,547人へ|戦後77年の交通事故死者数推移

77年の推移は、5年区切りの表ではなく、年ごとの折れ線で見るとピーク・底・現在地の3点が一目で並びます。1970年と1992年の二つの山、1996年の1万人割れ、2025年の最少更新。波形の中に、政策が効いた区間と効かなかった区間が交互に現れます。
1948年(昭和23年)の統計開始時点で、日本の交通事故死者数は3,848人でした。その後、自動車の急速な普及(モータリゼーション)に交通安全対策が追いつかず、死者数は年々増加します。1959年には初めて1万人を超えて10,079人となり、1970年(昭和45年)には16,765人と戦後最悪の水準を記録しました。1951年から1970年までのわずか19年間で、死者数は約3.8倍に膨らんでいます。これが「第一次交通戦争」と呼ばれる時期の到達点です。
1970年の交通安全対策基本法制定と、翌1971年から始まった交通安全基本計画の実施を境に、減少局面に入ります。第1次計画(1971-1975)は歩行者対策を優先課題とし、1979年には8,466人にまで減少しました。しかし1980年代後半から再び増加に転じ、1992年(平成4年)には11,452人と「第二次交通戦争」のピークを迎えます。背景には、若年層の運転免許保有者の増加や、自動車乗車中の死亡事故の比重増があります。
1992年以降は、シートベルト着用率の向上、エアバッグの普及、衝突被害軽減ブレーキ等の安全技術の進化を背景に、死者数は再び減少に転じます。1996年(平成8年)には9,943人と9年ぶりに1万人を下回り、2017年(平成29年)には3,694人で当時の統計開始以来最少を記録、2025年(令和7年)は2,547人で再び最少を更新しました。ピーク1970年と比べると約6.6分の1、削減率にして約85%という数字は、日本の交通安全対策が長期的には大きな成果を上げてきたことを示しています。
「第一次」と「第二次」二度の交通戦争|状態別の中身が教えること

二度の交通戦争は、ピークの数字だけではなく、当時の死者の「状態」を見比べると違いがはっきりします。歩行中・自動車乗車中・二輪車乗車中・自転車乗用中。どの状態が増え、どの状態が減ったのかが、政策と技術が効いた場所を映します。
第一次交通戦争(1970年ピーク)と第二次交通戦争(1992年ピーク)は、どちらも年間1万人以上の死者が出た時期ですが、死者の状態構成は対照的です。1970年代の死者の中心は歩行者でした。歩道整備が遅れ、信号機や道路標識も不足する中で、急速に増えた自動車に巻き込まれる歩行者の犠牲が多発したのが、第一次の特徴です。第1次交通安全基本計画が「歩行中の死者数を1975年予測値の半減」を目標に掲げ、3,732人まで減らしたのは、この対策が直接効いた成果です。
1980年代後半から1990年代前半の第二次交通戦争では、状況が変わります。歩行者の死者は引き続き多いものの、自動車乗車中の死者が大きく増えました。背景にあるのは、若年運転免許保有者の急増と、高速走行・夜間走行の機会増です。1985年に一般道でのシートベルト着用が義務化され、1992年には運転席・助手席のシートベルト着用が一般道で全面義務化、その後エアバッグやサイドエアバッグの標準装備が進みました。第二次の鎮圧は、歩行者対策中心の第一次とは異なり、車両の安全装備の普及によって達成された面が大きいと言えます。
令和元年の状態別構成を見ると、歩行中36.6%、自動車乗車中33.7%、二輪車乗車中16.3%、自転車乗用中13.5%となり、歩行中と自動車乗車中で全体の約7割を占めています。この基本構造は、令和6年(2024年)でも維持されており、歩行中が最も多く、自動車乗車中が次ぐ順序です。二度の交通戦争を経て、政策と技術が状態別の死者数を押し下げてきましたが、歩行中の死者の比重が再び高まっているのが、現在の構図です。
47都道府県タイルマップで見る2025年の死者数分布

都道府県別の死者数は、人口規模が違うため絶対数の比較ではあまり意味が出ません。人口10万人当たりに揃えると、地域による「事故の起きやすさ」の差が見えてきます。47県を一枚のタイルマップで並べると、上位と下位の輪郭がはっきりします。
令和7年(2025年)の人口10万人当たり死者数は、全国平均が2.06人です。最も多いのは滋賀県の3.85人で、次いで高知県3.81人、大分県3.78人、和歌山県3.75人、秋田県3.68人と続きます。最も少ないのは東京都の0.95人で、大阪府1.37人、愛知県1.50人、神奈川県1.51人、福岡県1.67人がベスト5です。最多の滋賀県と最少の東京都の差は約4.1倍で、人口比で見た死亡リスクには大きな地域差があることが分かります。
上位県の多くは、可住地面積が広く道路網が郊外型で、自動車での移動距離が長い地域に集中しています。下位県は、東京・大阪・愛知・神奈川・福岡といった大都市圏が並び、鉄道・バス等の公共交通の利用比率が高く、運転距離自体が短いことが影響していると考えられます。「都道府県別の人口10万人当たり死者数」は、治安や運転マナーといった文化的要因より、人口密度・交通モード構成・道路環境といった構造的な条件を強く反映する指標と読むのが妥当です。
地域差の構造は単年では大きく動きません。令和6年(2024年)の人口10万人当たり死者数も全国平均2.14人で、徳島県4.75人が最多、東京都1.04人が最少でした。2024年と2025年でランキングの上位・下位の顔ぶれは入れ替わりがありますが、「大都市圏は低く、地方は高い」という大枠は維持されています。47県を1年ごとに比較するよりも、5年程度の平均で見ると地域構造がより安定して読み取れます。
高齢者比率は16%から56%へ|死者構成の長期変化

高齢者比率は、ピーク年の数字だけ見ても全体が見えてきません。1970年から2025年までの55年間を線で結ぶと、坂が長く続いていることが分かります。死者数全体は減ったのに、高齢者の比率はその逆に上がり続けてきました。
第1次交通安全基本計画初年度の1971年(昭和46年)に近い1970年時点では、全交通事故死者数に占める65歳以上(高齢者)の割合は16.3%でした。それが第6次計画初年度の1996年(平成8年)には31.6%、第10次計画初年度の2016年(平成28年)には54.8%、令和2年(2020年)は56.2%、そして令和7年(2025年)は55.9%となり、55年間で約3.4倍に拡大しています。死者数全体は約6.6分の1まで減少した一方、構成比では高齢者帯が3倍以上に膨らむ、対照的な動きです。
背景には、日本社会全体の高齢化の進行があります。高齢者人口が増えれば、高齢者の死者数も比例して増えるのが構造です。それに加え、高齢者は他の年齢層に比べて致死率が約7倍高いという身体的要因もあります。事故に遭ったときに重症化しやすく、回復力も低いため、同じ事故でも死亡に至りやすい年齢層です。令和6年の警察庁データでは、人口10万人当たりの高齢者死者数は全国平均の約2倍で推移しており、人口比でも実数比でも高齢者が交通安全対策の中核課題として残り続けています。
状態別では、高齢者は歩行中の事故での死亡が他の年齢層より多く、特に夜間の道路横断時の事故が目立ちます。令和6年中の警察庁データでは、80歳以上の歩行中死者数(人口10万人当たり)は全年齢平均の約3.9倍に達しています。死者数全体が減るなかで高齢者比率が上がる構造を踏まえると、第12次交通安全基本計画(2026〜2030予定)では、高齢歩行者対策・反射材普及・横断歩道のバリアフリー化など、年齢層ごとの脆弱性に応じた施策の比重が、さらに高まることになりそうです。
政府目標「2,000人以下」は未達|直近4計画の到達点

計画ごとに目標と実績を並べてみると、達成・未達の連続が一目で読めます。1976年の第2次計画から現在の第11次まで、計画は5年ごとに引き直されてきました。直近4計画の数字を縦棒で並べてみます。
直近4計画のうち、達成できたのは第8次計画(2006-2010年度)の1計画のみです。第8次は「2010年までに5,500人以下」を目標に掲げ、実績は4,948人で達成しました。続く第9次計画(2011-2015)は「2015年までに3,000人以下」を目標としましたが、実績は4,117人で未達です。第10次計画(2016-2020)は「2020年までに2,500人以下」を目標としましたが、実績は2,839人で再び未達となりました。
そして第11次計画(2021-2025)は「2025年までに死者数2,000人以下、30日以内死者数2,400人以下、重傷者数22,000人以下」を目標としました。2025年の実績は24時間死者数2,547人で、政府目標の「2,000人以下」には届きませんでした。第9次以降、3計画連続で死者数の目標が未達となっており、目標値と実績値のギャップが定常化している構図が読み取れます。
赤間二郎国家公安委員長は2026年1月6日のコメントで、第11次計画の目標未達を認めた上で、「新たに策定される第12次交通安全基本計画に基づき、こども、高齢者を始めとする歩行者の安全の確保、自転車の交通ルール遵守のための交通安全教育の充実、飲酒運転や『ながらスマホ』等の悪質・危険な交通違反の取締り等の多角的な取組を、効果的かつ強力に推進していくよう、警察を指導してまいります」と述べました。第12次計画(2026〜2030予定)の目標値は2026年4月時点では策定中で、内閣府の交通対策本部での議論を経て確定します。
事故類型別の死亡事故|正面衝突・歩行者横断中・出会い頭で約7割

「どこでどう起きるか」が分かると、対策の優先順位が見えてきます。死亡事故の類型別構成を縦棒で並べると、上位3類型が大きく、それ以下が小さい階段状になります。3類型に対策資源を集中させると効率が良いことが、構成比から読めます。
令和6年(2024年)中の交通死亡事故を事故類型別にみると、最も多いのは正面衝突等(正面衝突・路外逸脱・工作物衝突をまとめた類型)で30.5%、次いで歩行者横断中が22.7%、出会い頭衝突が12.6%でした。この3類型を合わせると約66%、おおむね死亡事故の3分の2を占めています。残りは人対車両のその他8.4%、右左折時衝突6.8%、追突4.9%、その他14.1%という構成です。
正面衝突等は、対向車線へのはみ出し・カーブでの逸脱・電柱や標識への衝突を含み、自動車側の事故として最大の類型です。歩行者横断中は、道路を横断中の歩行者と車両の衝突で、夜間の発生が多く、高齢者の比率も高い類型です。出会い頭衝突は、信号のない交差点や交差点進入時に対向方向から進入する車両同士の衝突で、市街地の生活道路での発生が目立ちます。これら3類型は、原因も発生場所も異なるため、対策も別々に組み立てる必要があります。
過去10年間の人口10万人当たりの推移では、いずれの類型も減少傾向にありますが、令和6年は前年比で正面衝突等と右左折時衝突(人対車両その他を除く)が増加しました。一方、シートベルト着用率は2024年時点で94.9%にとどまり、非着用の致死率は着用の14.0倍と高い水準が続いています。これは、シートベルト着用率の向上余地と、非着用ドライバーへの徹底が、いまも自動車乗車中の死者数削減に直結することを示しています。事故類型と装備・着用の両面から、対策を組み立て直す段階に入っています。
楓のまとめ|減少の成果と高齢化の課題は同時に進む

ここまでの推移と地域差・構成比を一通り並べると、戦後80年の交通事故対策が「成果」と「課題」を同時に抱えていることが、図解の対比で確認できます。3つの観察事実に整理してみます。
「戦後80年で交通事故死者数はどれだけ減ったのか」という問いに対して、本記事で並べた図解は、長期トレンドの大幅減少と、高齢化・地域差・目標未達という別々の動きが同時並行で進んでいることを示してきました。期間の取り方・指標の選び方・年齢層別の構成、それぞれが違う物語を語ります。データそのものに優劣をつけるのではなく、見え方の違いを観察事実として整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、戦後80年の交通安全対策は、「総数を減らす」段階から、「年齢層別・状態別の脆弱性に応じて精密に減らす」段階へと、対策の質が変わってきている形が浮かびます。死者数の大幅減少と高齢者比率の拡大、目標達成と地域差の固定化が同時に進む現象は、交通安全対策の長期的な成果と、なお残る構造的な課題を、別の角度から映し出しています。「戦後80年で交通事故死者数はどれだけ減ったのか」への答えは、どの指標を、どの期間で、どの年齢層で見ているかで変わる、という観察事実そのものが、いまの交通事故をめぐる景色を最もよく映しています。
よくある質問(FAQ)

交通事故統計を読むときは、24時間死者数と30日以内死者数の違い、年齢層別の構成、計画の到達点の3点をセットで確認してください。同じデータでも、この3点が変わると読み取れる物語が変わります。
Q1. 「24時間以内死者数」と「30日以内死者数」は何が違うのですか?
本記事で示した死者数(2,547人など)は、すべて警察庁の交通統計の「24時間以内死者数」です。これは交通事故発生後24時間以内に死亡した人の数を集計したもので、戦後一貫して用いられている指標です。一方の「30日以内死者数」は、事故発生後30日以内に死亡した人を含む集計で、より広く死亡者を捉える数字になります。令和6年の30日以内死者数は3,221人で、24時間死者数(2,663人)の約1.2倍にあたります。国際比較ではIRTAD(国際道路交通事故データベース)が30日以内死者数を採用しているため、各国比較の文脈では30日以内ベースが用いられます。
Q2. 高齢者比率がここまで増えた理由は何ですか?
大きく3つの要因が重なっています。第一に、日本社会全体の高齢化です。高齢者人口の絶対数が増えれば、事故に遭う高齢者も比例して増えるのが基本構造です。第二に、高齢者は他の年齢層に比べて致死率が約7倍高いという身体的要因があります。同じ事故でも、高齢者は重症化しやすく回復力が低いため、死亡に至りやすい層です。第三に、若年層の運転免許保有者数の減少と、自動車の安全装備(エアバッグ・自動ブレーキ等)の普及が若中年層の死者を急速に押し下げた一方、歩行中の死亡が多い高齢者層には、装備の効果が直接届きにくい構造があります。これら3要因が重なって、構成比では高齢者帯が拡大し続けてきました。
Q3. 第12次交通安全基本計画では何が目標になるのですか?
第12次交通安全基本計画(2026〜2030年度予定)の目標値は、本記事執筆時点(2026年4月)では策定中です。国土交通省の交通政策審議会の資料(2025年10月)では、24時間死者数1,900人以下、30日以内死者数2,300人以下が政府目標案として示されており、内閣府の中央交通安全対策会議での議論を経て確定する見通しです。第11次計画の未達を踏まえ、こども・高齢者の歩行者安全、自転車の交通ルール遵守(2026年4月から自転車に交通反則通告制度の導入)、飲酒運転や「ながらスマホ」等の取締り強化が重点課題として議論されています。確定値は本サイトの最新記事で随時更新します。
🔍 この記事のファクトチェックについて

当サイトはファクトチェックを実施しています。このページのファクトチェックのエビデンスを以下に掲載します。


