
「日本の森林面積は減ったのか、増えたのか」という問いには、面積と蓄積を一緒に並べて見るのが近道です。面積はほぼ水平で、蓄積だけが上向きに伸びる二軸の波形を見ると、戦後80年の森林の動き方の輪郭が一目で浮かびます。
日本の森林は減っているのか、増えているのか——。林野庁の「森林資源の現況」によれば、森林面積は1966年(昭和41年)の2,517万haから2022年(令和4年)の2,502万haへと、56年でわずか-15万ha(-0.6%)の微減でほぼ横ばいです。一方で、森林蓄積(幹の体積)は18.9億m³から55.6億m³へと約2.94倍に増えました。面積は変わらないのに、資源量だけが3倍に膨らんだ——これが、いまの日本の森林の最も大きな特徴です。
本記事では、林野庁の「森林資源の現況」「森林・林業統計要覧2024」「令和5年度森林・林業白書」「令和6年度森林・林業白書」など一次情報を、面積×蓄積の二軸折れ線・戦後80年タイムライン・47都道府県森林率タイルマップ・人工林の齢級別構成といった複数の図解で整理します。戦後の植林が成熟期に達した「資源大量保有期」の景色を、面積・内訳・地域・年齢の4つの軸で観察していきます。
日本の森林面積は減ったのか、増えたのか?
面積は56年でほぼ横ばい。一方で森林蓄積は約2.94倍に増えた。
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日本の森林面積は戦後80年でほぼ横ばい——2,517万ha → 2,502万ha

56年の推移は、面積と蓄積を別々に見ていると気づけません。1枚の二軸グラフに重ねると、上の線は地面と平行のまま、下の線だけが斜めに伸びていく形が見えてきます。
林野庁の「森林資源の現況」によれば、日本の森林面積は1966年(昭和41年)の2,517万haから、2022年(令和4年)の2,502万haまで56年間でわずか15万haの微減です。比率にすると-0.6%、1年あたり約2,700haの減少で、ほぼ横ばいと言える水準です。同期間、世界では熱帯雨林を中心に森林の純減少が進んでいたことを思い出すと、日本の森林面積が56年にわたり安定し続けたことそのものが、国際的に見れば珍しい現象です。
一方、同じ統計の森林蓄積(立木の幹の体積)は、1966年の18.9億m³から2022年の55.6億m³まで、約2.94倍に増えました。差し引きすると+36.7億m³。「面積はそのままで、資源量だけ3倍近く膨らんだ」という形は、推移のグラフを重ねて初めて視覚化されます。植えた木が太く高く育ち、伐採がそれに追いついていないため、立っている木の量が時間とともに積み上がってきた構造です。
この「面積は安定・蓄積は急増」という二項並立は、戦後80年間の日本の森林を観察するときの出発点になります。「森林は減ったのか・増えたのか」という単純な二択では捉えきれず、面積と蓄積をセットで見て初めて、いまの日本の森林の輪郭がはっきりしてきます。次のh2では、なぜそうなったのかの歴史的経緯を、戦後80年のタイムラインで整理します。
戦後80年タイムライン——荒廃から拡大造林、そして資源大量保有期へ

80年の流れは、年表の文字列で読むより、節目を点で並べたタイムラインで見ると相互の関係が見えてきます。荒廃・拡大造林・成長・成熟の4つの段階が水平に並びます。
1945年(昭和20年)の終戦時、日本の森林は戦時中の伐採と空襲などで荒廃しきっていました。林野庁の「令和5年度森林・林業白書」によれば、1949年時点で造林されていない伐採跡地(造林未済地)は全国で約150万haに及び、これは現在の人工林面積の約15%に相当する規模です。戦後の早い段階で、政府は「復旧造林」と呼ばれる集中的な再造林政策を打ち出し、1956年(昭和31年)にはほぼ全国で復旧が完了しました。
1950年代後半から1970年代前半にかけては、戦後の高度経済成長で旺盛になった木材需要に応える形で、広葉樹を中心とする天然林を伐採し、スギ・ヒノキを中心とする針葉樹を植える「拡大造林政策」が全国で展開されました。最盛期の1965〜1970年代前半には、年間40万ha弱の造林が行われ、これが現在の人工林1,009万haの大半を生み出した源流です。1995年(平成7年)に人工林面積はピークの約1,040万haに達しました。
1980年代以降、外材輸入の拡大とともに国内の伐採は急速に縮小しました。一方、戦後植えた木はそのまま育ち続けたため、2010年代に入ると森林蓄積は45億m³を超え、いま「資源大量保有期」と呼ばれる局面にあります。2025年は戦後80年の節目で、林野庁の「令和6年度森林・林業白書」によれば近年の木材自給率は43%まで回復しました。荒廃から始まった戦後の森林は、面積はほぼ変わらないまま、内側で資源が積み上がる段階に入っています。
人工林は約216万ha増え、天然林は約14%減った——内訳の変化

「面積はほぼ横ばい」と言っても、中身は静止していません。人工林と天然林を積み上げて並べると、下の層が上の層を押し上げる形で増減してきた経過が見えます。
森林面積はほぼ横ばいでも、人工林と天然林の内訳は56年で大きく変化しました。林野庁の「森林資源の現況」によれば、人工林は1966年の793万haから2022年の1,009万haへと約216万ha増加し、1.27倍になりました。一方、天然林等(天然林+無立木地など)は1,724万haから1,493万haへと約14%減少しています。面積総量は同じでも、その中身は人工林への置き換えが進んだ形です。
この変化の主因は、戦後の拡大造林政策にあります。1950〜1970年代にかけて、経済価値の高い針葉樹(スギ・ヒノキ・カラマツ・トドマツ)を植えるために、それまで広葉樹中心だった天然林の一部が伐採され、人工林へ置き換えられました。1995年に人工林面積はピークの約1,040万haに達し、その後は新規造林の鈍化と再造林されない伐採跡地の増加もあって緩やかに減少局面に入っています。
2022年時点で、日本の森林2,502万haの内訳は人工林が約4割、天然林等が約6割です。人工林は森林全体の約4割を占めながら、戦後植えた木が一斉に成熟期を迎えたため、森林蓄積に占める割合では人工林が55.6億m³のうち35.45億m³(約64%)と過半数を占めます。面積は4割でも、資源量では6割超——この内訳の差が、いまの日本の森林の特徴を決めています。
47都道府県の森林率——高知84%・岐阜81%、低い千葉29%・大阪30%

森林率の地域差は、47県の表を読み下すよりタイルマップで一望すると地理が立ち上がります。山岳地帯と都市圏で色の濃淡がきれいに分かれる景色が見えてきます。
林野庁の「都道府県別森林率・人工林率」(令和4年3月31日現在)によると、47都道府県の森林率は最高が高知県の84%、次いで岐阜県81%、長野県79%・山梨県78%・島根県78%と続きます。一方、最低は千葉県29%、次いで大阪府30%・茨城県31%・埼玉県31%・東京都36%の順でした。最高と最低の比率は約2.9倍で、47都道府県のあいだに大きな地域差があります。
分布をタイルマップで見ると、地理的なパターンがはっきりします。森林率が高い県は四国山地・中部山岳地帯・東北の山地に集中し、低い県は関東平野・大阪府を中心とする近畿都市圏に集中しています。森林率は地形と人口集中の写し鏡で、平地が広く都市化が進んだ地域ほど低く、山岳地帯が多い地域ほど高いのが基本構造です。
全国平均の森林率は約66%です。これは先進国の中でもフィンランドやスウェーデンと並ぶ高水準で、日本が国土の3分の2を森林に保ち続けている事実を示しています。47都道府県の差は、戦後の拡大造林の進み方より、もともとの地形と都市化の度合いに強く依存しており、森林率の数字は「自然環境の余白」と「都市発展の進度」の両方を映し出す指標と言えます。
森林蓄積は約3倍に増えた——「使うべき森林資源」の構造

蓄積が3倍に増えた中身を齢級別に見ると、年齢構成のピークが10齢級(46〜50年生)以上にぐっと寄っているのが分かります。主伐期に到達した木が圧倒的多数です。
森林蓄積が約2.94倍に増えた最大の理由は、戦後の拡大造林期に植えられたスギ・ヒノキが一斉に成熟期に入ったことです。林野庁の「森林資源の現況」によれば、人工林1,009万haの齢級別構成(1齢級=1〜5年生・5年区切り)を見ると、10齢級超(46年生以上)が約51%を占めます。つまり、人工林の半数以上が「主伐期」と呼ばれる伐採適期に到達しています。
人工林の蓄積は、1966年の5.6億m³から2022年の35.45億m³へと約6.4倍に増えました。これは植えた木が太く高く育ち続けた一方、伐採が需要不足のためにそれに追いついていないため、立木が時間とともに積み上がった結果です。一方、林野庁の「令和6年度森林・林業白書」によれば、近年の木材自給率は43%まで回復しています。1960年代の自給率は90%超でしたが、1970〜2000年代の外材主導期に20%台まで落ち込んでおり、現在は底を打って戻り始めた段階です。
「使うべき森林資源」が成熟しきった一方で、再造林率(伐採後にもう一度植え直す比率)は全国平均で約3〜4割にとどまっています。木を伐っても新しく植えなければ、資源は次の世代に引き継がれません。木材自給率の回復ペースと再造林率の停滞は、いまの日本の森林政策が抱える「資源を使う段階に入ったが、循環の輪が完結していない」という構造を映しています。
なぜ面積は変わらず蓄積だけが増えたのか——「拡大造林・成長・伐採低迷」の構造

面積横ばい・蓄積3倍という不思議な現象は、起こったことを4ステップに分解して並べると因果の流れが見えてきます。植えた・育った・伐らなかった・積み上がった、という順番です。
「面積はほぼ横ばい・蓄積は約2.94倍」という現象は、4つの段階が連続することで生まれました。第1に、戦後の拡大造林期(1950〜1970年代)に天然林を伐採して人工林(針葉樹)を植えました。面積を入れ替えた段階です。第2に、植えたスギ・ヒノキが半世紀かけて太く高く成長し、立木の体積が単木あたりで何倍にも増えました。これが蓄積膨張の物理的源泉です。
第3に、1970年代以降は外材輸入の拡大で国内伐採が低迷しました。林野庁の統計によれば、国産材の供給量は1967年の約5,200万m³をピークに、2002年には約1,300万m³まで減少しました。植えた木は育ち続け、伐採が成長量に追いつかないため、毎年新たに増える蓄積がそのまま立木として積み上がる状態が長く続きました。
第4に、これらが累積した結果、2022年には森林蓄積55.6億m³に到達しました。1966年の18.9億m³から差し引きすると+36.7億m³です。「植えた・育った・伐らなかった」が時間軸の上で連続したことで、面積は変わらないのに資源量だけが3倍に増えたという、世界の森林動態の中でも特異な状況が生まれました。現在は近年の木材自給率43%回復が示すように、ようやく蓄積を「使う」局面が始まっています。
楓のまとめ|面積は変わらず・密度は増え・利用は伴わなかった80年

ここまでの推移と地域差・齢級構造を一通り並べると、戦後80年の森林の動きは「面積・密度・利用」の3つの軸で観察できます。3つの観察事実に整理してみます。
「日本の森林は減っているのか、増えているのか」という問いに対して、本記事の図解は「面積はほぼ横ばい」「蓄積は約2.94倍」「都道府県差は約2.9倍」「人工林の半数超が主伐期」といった複数の事実を並べてきました。一方向の動きではなく、軸ごとに違う方向の動きが並走している景色を、観察事実として整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、戦後80年の日本の森林は「面積は変わらず・密度は増え・利用は伴わなかった」3軸の不一致が同時に進んだ形が浮かびます。「日本の森林は減っているか・増えているか」への答えは、面積で見るか・蓄積で見るか・利用で見るかで結論が変わることそのものが、いまの日本の森林をめぐる景色を最もよく映しています。
よくある質問(FAQ)

森林のグラフを読むときは、面積・蓄積・齢級・地域の4つの軸を別々に見るのが近道です。同じ森林でも、軸が変われば見える物語が変わってきます。
Q1. 日本の森林は減っていないのに、なぜ熱帯雨林破壊と一緒に語られるのですか?
世界全体では森林が減少傾向にあるため、グローバルな環境議論では「森林=減っているもの」という前提で語られがちです。FAO(国連食糧農業機関)の「世界森林資源評価2020」によれば、世界の森林は1990〜2020年に約1.8億haが純減少しました。一方、日本の森林面積は同期間にほぼ横ばい、または微増です。国際的な議論で日本の森林が一括りに「減少している」と語られるとき、実態と異なる印象が生まれることがあり、面積だけでなく蓄積・内訳・齢級などの複数の指標で見る必要があります。
Q2. 「再造林されない伐採跡地」は森林面積から外れていないのですか?
林野庁の「森林資源の現況」では、伐採後に植林されないまま放置されている土地(無立木地)も森林面積に含めて集計しています。森林簿上の「森林」の定義は、土地の用途指定が森林であるかどうかで決まるためです。実際、人工林の伐採跡地のうち再造林されているのは全国平均で約3〜4割にとどまり、残りは無立木地として森林面積に計上されたまま立木が消えています。森林面積が横ばいに見えても、立木で覆われた森林の実態は内側で少しずつ変化しています。
Q3. 戦後80年と言うが、データが続いているのは1966年からと聞きました。
そのとおりです。林野庁の「森林資源の現況」は1966年(昭和41年)から5年ごとに公表されており、それ以前の戦後初期は別の統計手法で部分的に把握されています。本記事では1949年(昭和24年)の造林未済地150万ha・1956年の復旧造林完了などを「令和5年度森林・林業白書」の歴史記述から引いており、機械可読な時系列データそのものは1966年以降が中心です。1966年スタートから2022年までの56年間が、現代の統計で連続して追える戦後森林史の中核区間と位置づけられます。
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