
「物価高で生活が苦しい」という声が広がる一方、賃金は名目では5年連続増となっています。物価と賃金の両指数を同じ2020年基準のスケールで重ね、ピーク年・交差点・現在地の3点を並べて見ると、ふだん別々に語られている2つの数字の関係がはっきり見えてきます。
2025年(令和7年)の消費者物価指数(総合)は前年比+3.2%、月間現金給与総額(5人以上)は前年比+2.3%で5年連続の増加でした。一方、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で実質化した実質賃金指数は前年比-1.3%で、4年連続のマイナスです。総務省と厚生労働省の最新確報を並べると、物価と実質賃金の差は2025年で4.5ポイントに達します。名目賃金は5年連続のプラスで過去最高水準に届きつつあるにもかかわらず、物価上昇に追いつかず、購買力を示す実質賃金は2014年以降の12年間で3回しかプラスとなっていません。これが、いまの日本の家計をめぐる物価と賃金の構造です。
本記事では、総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均」(2026年1月23日公表)と、厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」(2026年2月25日公表)などの一次情報を、対比カード・31年折れ線・乖離色帯付き二重折れ線・12年棒グラフ・就業形態別横棒の複数の図解で整理します。1995年からの31年と、最新の2025年確定値の両方を別々の角度から重ねることで、物価と賃金の長期トレンドの方向と短期局面の現在地を観察していきます。
物価と賃金、2025年はどちらがどれだけ動いたのか。
物価は前年比+3.2%、実質賃金は前年比-1.3%。差は4.5ポイントで、実質賃金は4年連続のマイナス。
物価が実質賃金を4.5ポイント上回る(2025年・5人以上・現金給与総額)
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2025年の確定値|物価・名目・実質を1枚で対比

2025年の数字は対比カードで4枚並べると、それぞれの「方向」と「水準」がひと目で見えます。物価と名目はプラス、実質はマイナス。その差がどこにあるかを起点にして、過去30年の推移を順番に見ていきます。
2025年(令和7年)の確定値を4つの主要数値で並べると、物価と賃金の関係が1枚にまとまります。消費者物価指数(総合)は2020年を100として111.9、前年比は+3.2%で、4年連続の2%超の上昇となりました。事業所規模5人以上・現金給与総額の名目賃金指数は前年比+2.3%で5年連続の増加、月間平均は355,941円です。一方、CPI(持家の帰属家賃を除く総合・令和2年基準)で実質化した実質賃金指数は前年比-1.3%で、4年連続のマイナスとなっています。物価+3.2%から実質賃金-1.3%を差し引くと、両者の差は4.5ポイントに広がります。
名目賃金は5年連続増で過去最高水準に近づきつつありますが、物価上昇率がそれを上回り、生活実感に近い実質賃金はマイナス側に振れ続けています。この4枚の数字の対比は、「物価が上がっているのは事実」「賃金が増えているのも事実」「それでも実質は減っているのも事実」という3つの事実が同時に成り立つことを示しています。以下、それぞれの数字が30年でどのような経路をたどってきたのかを、長期推移チャートで順番に見ていきます。
消費者物価指数の31年推移|1995年から2025年まで

31年の推移は、節目年にマーキング付きの折れ線で見ると、低位安定期と上昇加速期の境目がはっきり見えてきます。消費税率改定の年と、2022年以降の局面が並んで現れます。
消費者物価指数(総合・2020年=100)を1995年から2025年まで並べると、約30年間は低位安定期が続き、2022年以降に明確な上昇局面に入っています。起点の1995年は95.9(連鎖逆算値)で、1997年の消費税5%増税(4月)で97.7まで上昇しました。1998年から2010年代前半まではほぼ95〜99の幅で推移し、2014年の消費税8%増税(4月)で97.5、2019年の消費税10%増税(10月)で100.0と、増税年に段階的に水準が切り上がるパターンを繰り返してきました。2022年以降は外的要因が変わり、エネルギー価格の上昇と円安進行を背景に、4年連続で前年比2%を超える上昇が続いています。2022年は102.3(前年比+2.5%)、2023年は105.6(+3.2%)、2024年は108.5(+2.7%)、2025年は111.9(+3.2%)で、過去30年で最も急峻な上昇局面となりました。
31年の累積でみると、1995年の95.9から2025年の111.9まで、約+16.7%の上昇です。ただし、累積上昇分のうちおよそ3分の2は2022年以降の4年間に集中しており、それ以前の27年間はほぼ横ばいで推移してきました。デフレ期の長期低位安定とインフレ期の急上昇が31年の中で時期的に分かれている形で、「30年で17%」という平均値だけを見ると、足元で起きている物価上昇の体感的なインパクトが薄まって見えやすい指標です。
実質賃金指数の31年推移|1996〜1997年のピーク帯以降の長期低下

実質賃金は、起点とピークと現在地の3点を並べると、長期トレンドの方向が一目で見えてきます。1996〜1997年の高さと、現在地の低さを同時に見るのが要点です。
実質賃金指数(5人以上・現金給与総額・2020年=100)を1995年から2025年まで並べると、ピーク帯と長期低下基調の組み合わせが浮かびます。厚生労働省「毎月勤労統計調査」の系列では、1995年は115.1、1996年は116.5、1997年は116.4で、1996〜1997年が31年間の最高水準帯(ピーク帯)となります。1990年代後半のピーク帯(116.5)以降、実質賃金指数は緩やかに低下を続け、2025年は推計95.55と、ピークから約18%、1995年起点から見ると約17%の低下となります。1998年から2002年にかけて1ポイント前後ずつ低下し、2008年のリーマン・ショック前後で107前後、2014年の消費税8%増税の影響で102.3まで下落、2020年(コロナ禍)に100.0となり、2022年以降は再び物価上昇に押される形で2025年の95.55へとマイナス幅を広げています。
31年通期でみると、1995年から2025年の累積変動は約-17%。同じ期間の消費者物価指数(総合)が約+16.7%上昇したことと合わせて見ると、物価が約2割上がる中で実質賃金が約2割下がる、ほぼ逆方向の動きが30年間続いてきた構造になります。ピーク年とその後の低下幅は、同じ期間に名目賃金がほぼ横ばいだったことと、物価の段階的上昇が組み合わさった結果として現れています。
物価と実質賃金を1枚に重ねる|31年の乖離幅で見る

ふたつの指数を別々の図で見るより、同じスケールで重ねた方が関係性が見やすくなります。乖離の幅と方向を背景の色帯で表現すると、どこで両者がすれ違ったのかがすぐにわかります。
消費者物価指数と実質賃金指数を同じ2020年=100のスケールで1枚に重ねると、2系列が30年でどのようにすれ違ってきたかが視覚的に整理できます。1995年の時点では、CPIが95.9、実質賃金が115.1で、実質賃金がCPIを約19ポイント上回っていました。その後、実質賃金は緩やかに低下する一方、CPIは増税ごとの段階的上昇とデフレ期の停滞を繰り返しながら少しずつ上昇し、2010年代後半までは「実質賃金がCPIより常に上にある」状態が続きます。
両系列の関係が大きく変わるのは2022年です。コロナ禍からの経済再開とエネルギー価格上昇・円安進行が重なり、CPIは2022年に102.3、2023年に105.6と急上昇しました。一方、名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金は2022年99.6、2023年97.1と低下を続けます。結果、2022年あたりで両系列の位置が逆転し、それ以降はCPIが実質賃金を上回る状態に入りました。2025年時点でCPIは111.9、実質賃金は推計95.55で、その差は約16.35ポイント。1995年時点とは逆方向に乖離が広がっています。図解の背景色帯は、CPI>実質賃金の局面を朱、CPI<実質賃金の局面を青で示しています。2022年あたりを境に、色帯の主役が青から朱へ反転している様子が観察できます。
直近12年の実質賃金前年比|プラスは3回・残り9年はマイナス

長期推移の終盤を、年単位の前年比で粒度を上げて見ると、プラス年とマイナス年の数の差がはっきり見えてきます。3回しかない緑色のバーと、9本ある赤いバーが、12年の景色をそのまま映します。
実質賃金指数の前年比を2014年から2025年まで12年分並べると、プラス年とマイナス年の出現頻度が定量的に整理できます。厚生労働省「毎月勤労統計調査」の確報・速報を統合すると、12年間で前年比がプラスとなった年は2016年(+0.8%)、2018年(+0.2%)、2021年(+0.6%)の3年だけです。残り9年はすべてマイナスとなっており、2014年(-2.8%・消費税8%増税)、2023年(-2.5%)、2020年(-1.2%)、2019年(-1.0%)、2022年(-1.0%)、2025年(-1.3%)など、-1%超のマイナス年が複数年含まれます。
特に注目すべきは2022年から2025年の4年連続マイナスです。2022年-1.0%、2023年-2.5%、2024年-0.3%、2025年-1.3%と、コロナ禍からの経済再開期と物価上昇加速期が重なって、4年連続で実質賃金がマイナスとなる状態が続いています。2014年以降の12年で実質賃金がプラスとなる頻度は4年に1回程度、マイナスとなる頻度は4年に3回程度。「実質賃金は基本マイナスの年が続き、たまにプラスの年が来る」というのが、ここ12年の頻度として観察できる構造です。
2025年の就業形態別|名目と実質の対比は形態を問わず同じ向き

全体平均だけでなく、就業形態別に分けると、構造の同じ向きが繰り返し現れているのが見えてきます。一般・パート・きまって支給。すべてのカテゴリで名目はプラス、実質はマイナスです。
2025年の賃金前年比を就業形態別に分けて見ると、名目はすべての形態でプラス、実質はすべての形態でマイナスという同じ向きの構造が繰り返し現れます。厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」(2026年2月25日公表)によれば、一般労働者の現金給与総額は前年比+2.9%・月額465,923円、実質は-0.7%でした。パートタイム労働者は名目+2.3%・月額114,527円・時給1,394円(時給の前年比は+3.8%)、実質は-1.3%。きまって支給する給与は名目+2.0%・月額287,427円、実質は-1.6%となっています。
所定内給与(5人以上)は名目+2.0%・月額267,532円で、パートタイム労働者の時間当たり給与は名目+3.8%と、形態別に分けると伸び率の差は出てきます。ただし、いずれの形態でも名目はプラス、実質はマイナスの組み合わせは変わりません。パートタイム労働者の時給は2012年の統計開始以降で最高水準クラスの伸び率となっており、最低賃金の引き上げや人手不足を背景とした上昇局面に入っていますが、それでも物価上昇率には届かず、実質では他形態と同じくマイナス側に振れています。「賃上げは進んだが、購買力は減った」という観察事実は、就業形態を問わず2025年の日本の労働市場に共通する局面です。
楓のまとめ|物価と実質賃金の30年は逆方向の動きが重なっている

ここまでの31年推移と直近の数字をひと通り並べると、物価と実質賃金が30年で逆方向に動いてきた構造が、図解の対比からあらためて確認できます。3つの観察事実に整理してみます。
「物価と賃金、30年でどう動いたか」という問いに対して、本記事で並べた図解は、物価と実質賃金が長期で逆向きに、短期でも乖離を広げていることを示してきました。期間の取り方・指数の選び方・形態の分け方、それぞれが違う物語を語ります。データそのものに優劣をつけるのではなく、見え方の違いを観察事実として整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、いまの「物価高で生活が苦しい」という実感は、賃金が上がっていないからではなく、賃金が上がっても物価上昇率に届かないという構造的なギャップから生まれている形が浮かびます。物価指数の31年累積+16.7%と、実質賃金指数の31年累積-17%が同時並行で進む乖離は、デフレ期の長期低位安定とインフレ期の急上昇、そして1996〜1997年以降の実質賃金の長期低下という3つの時期構造が重なって生まれている現象として整理できます。「物価と賃金は30年でどう動いたか」への答えは、どの指数を、どの期間で、どの形態で見ているかで変わる、という観察事実そのものが、いまの日本の家計をめぐる景色を最もよく映しています。
よくある質問(FAQ)

賃金のグラフを読むときは、指数か実数か・どの期間か・どの形態かの3点をセットで確認してください。同じデータでも、この3点が変わるだけで読み取れる物語が変わります。
Q1. 名目賃金が5年連続増なのに、なぜ生活が苦しく感じるのですか?
名目賃金は2021年以降5年連続でプラスとなっていますが、同じ期間に消費者物価指数(総合)も2022年+2.5%、2023年+3.2%、2024年+2.7%、2025年+3.2%と上昇しており、4年連続で物価上昇率が名目賃金上昇率を上回っています。購買力を示す実質賃金指数(名目賃金÷CPI)は、その差の分だけマイナスとなり、2022年から2025年は4年連続マイナスです。「給料の数字は増えたが、同じ金額で買えるものは減った」という体感は、名目と実質のギャップから生まれています。
Q2. 30年で物価+16.7%は他国と比べて多いですか?少ないですか?
国際比較の観点では、日本の30年の物価上昇率は主要先進国の中でかなり低い部類に入ります。OECDのデータでは、同じ1995年から2025年でアメリカは約2倍(+100%台前半)、ユーロ圏は約1.8倍程度、英国は約2倍前後の物価上昇となっており、日本の+16.7%は突出して低い水準です。一方、名目賃金の伸びも他国は2〜2.5倍程度上昇しているのに対し、日本はほぼ横ばいで推移してきました。「物価も賃金もほぼ動かない」というデフレ期の長期均衡が日本の特徴で、2022年以降の物価上昇局面はこの均衡から外れる動きとなっています。
Q3. 2025年の実質賃金マイナスは、今後どこまで続くのですか?
将来予測ではなく観察事実として答えると、2026年以降の方向は、名目賃金の伸び率と物価上昇率のどちらが大きいかによって決まります。2025年の名目賃金は+2.3%、CPI(総合)は+3.2%でその差は0.9ポイント分のマイナスとなっています。2014年以降の12年で実質賃金プラスとなった3回(2016年・2018年・2021年)はいずれも、CPI上昇率が0%台または微マイナスの年でした。実質賃金がプラスとなるためには、名目賃金がCPI上昇率を上回るか、CPI上昇率自体が鈍化するかの、どちらかが必要です。総務省と厚生労働省の最新月次データを照らし合わせながら、当面の方向は四半期ごとに確認していくのが、観察事実に基づく見方になります。
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