
JR各社の赤字ローカル線は、表ではなく地図と横棒で並べて見ると、どこに集中しているのか、どの線区で営業係数が極端化しているのかが一目でわかります。全国の線区を一枚に重ねます。
「JRの赤字路線はどれくらい赤字なのか」という問いに対して、客観データは明確な答えを出しています。JR旅客5社(北海道・東日本・西日本・四国・九州)が2025年7〜11月に公表した2024年度線区別収支データを統合すると、輸送密度2,000人/日未満を中心とする141線区超のすべてが赤字で、5社合計の営業赤字は約1,825億円に達します。JR東日本△790億円とJR北海道△582億円の2社で全体の約75%を占め、JR北海道は11年連続で全区間赤字です。
本記事では、5社のプレスリリースを一次情報源として、5社別赤字額の横棒比較・営業係数ワースト10ランキング・47都道府県タイルマップ・輸送密度の38年推移・5社の集計基準差まとめテーブルといった複数の図解で、ローカル線収支の全国の実態を整理します。各社の集計基準(期間・管理費・開示閾値)が異なるため単純比較は不可ですが、前提条件を明示しながら全国の地理分布を観察していきます。
JR赤字路線は全国でどれだけ赤字を出しているのか。
JR旅客5社のローカル線は2024年度実績で合計約1,825億円の営業赤字。輸送密度2,000人未満の線区を中心に、141線区超のすべてが赤字となっている。
本記事は楓が調査・編集しています。掲載情報は執筆時点のものです。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
5社別の赤字額|JR東日本・JR北海道で全体の約75%

5社の赤字額を横棒で並べると、表ではなく長さで規模感が直感的に入ってきます。JR東日本とJR北海道の2強と、それ以外の3社の差が一目で見えてきます。
JR旅客5社の2024年度実績ベースの営業赤字額を並べると、JR東日本の△790億円が最大、次いでJR北海道の△582億円が続きます。この2社だけで全体の約75%(1,372億円/1,825億円)を占めており、ローカル線収支問題が北日本に強く偏在していることが分かります。JR東日本は36路線71区間(輸送密度2,000人/日未満の線区)、JR北海道は全20線区の数値です。
JR西日本の△267億円は2022〜2024年度の3か年平均、JR四国の△138億円とJR九州の△48億円は2024年度単年度です。JR西日本は3か年平均で輸送密度2,000人/日未満の線区のみを開示しているため、他社の単年度・全線区開示と直接比較することはできません。JR北海道は管理費を含む数値(D=B+C基準)を採用しており、本社・支社費用を除外して計算するJR東日本・JR西日本・JR九州とは集計基準が異なります。
なお、JR東海は線区別収支を非開示としているため、5社統合の対象外です。東海道新幹線の高収益で全社的に黒字を維持しているため、線区別での収支構造の開示を行っていません。ここでの「5社合計約1,825億円」はあくまでJR東海以外の5社の数値であり、JR東海エリア内のローカル線(飯田線・名松線・参宮線等)の収支は別途検討が必要です。
営業係数ワースト10|100円稼ぐのに2万円超の線区も

営業係数は「100円稼ぐのにかかる費用」です。横棒で並べると、100円稼ぐのに1万円・2万円かかる線区が現実に存在することが一目で分かります。
5社統合の営業係数ワースト10では、1位がJR東日本の陸羽東線 鳴子温泉〜最上で、営業係数は22,360円。100円の運賃収入を得るのに22,360円の費用がかかっており、支出が収入の223倍に達するという極端な数字です。この区間は2024年7月の豪雨で被災し、現時点では代行バスによる輸送が続いているため、鉄道事業としての収益がほぼ立たない一方で、車両・設備の維持費用は発生し続けています。
2位の津軽線 中小国〜三厩(10,649円)と10位の奥羽本線 新庄〜湯沢(5,399円)も豪雨被災線区で、営業係数の極端値は被災と強く相関しています。営業係数が1万円を超える4区間(陸羽東線・津軽線・飯山線 戸狩野沢温泉〜津南・花輪線 荒屋新町〜鹿角花輪)のうち、被災代行輸送中が2区間、運行中が2区間です。
ワースト10のうち9区間がJR東日本で、本州西側はJR西日本の芸備線 東城〜備後落合(9,945円)の1区間のみです。芸備線(東城〜備後落合)は2022年4月に「再構築協議会」(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づく再構築実施計画の協議会)の枠組みで議論が始まった象徴的な線区で、現在も鉄道事業者と沿線自治体・国の三者で存続のあり方の協議が続いています。
47都道府県マップ|赤字線区は東北と中国地方に集中

47都道府県を一枚のタイルマップにすると、赤字線区が地理的にどこに集中しているのかが色の濃さで直感的に分かります。東北・北海道・中国・四国の各地方に色が濃く出ます。
都道府県別の最悪営業係数を5階調で色塗りすると、東北6県と新潟・長野の北日本ベルト、JR北海道、中国地方の広島・岡山、JR四国全域、JR九州の南九州が濃い色で並びます。「対象なし」と表示される県は、輸送密度2,000人/日未満の開示線区が当該県内に存在しないことを意味し、関東中央部・近畿中央部・福岡周辺に集中しています。首都圏や近畿圏など人口密集地のJR路線は輸送密度が高く、開示の対象外となっています。
上位8県は宮城・山形(陸羽東線がまたぐ2県)と青森・新潟・長野・岩手・秋田・広島で、営業係数1万円超のラインです。陸羽東線(鳴子温泉〜最上)は宮城県と山形県の県境を跨ぐ線区で、両県とも22,360円という同一値を割り当てています。飯山線(戸狩野沢温泉〜津南)は新潟・長野両県を、花輪線(荒屋新町〜鹿角花輪)は岩手・秋田両県をまたぎます。
比較的良好な下位8県は石川・岐阜・富山・三重・福井・長崎・大分・熊本で、いずれも開示対象線区はあるものの、営業係数は1,000〜3,000円台に収まっています。ただしこれらの県でも「黒字」になっているわけではなく、開示閾値(輸送密度2,000人/日未満)の中での相対比較である点には注意が必要です。「対象なし」となる15県は、輸送密度の高いJR本線(東海道本線・山陽本線・東北本線等)が県内を通っており、輸送密度2,000人/日未満線区が含まれない地域です。
輸送密度の38年推移|95%減少した区間も

1987年の国鉄分割民営化から2024年までの38年で、ローカル線の輸送密度がどれだけ減ったのかを横棒で並べると、利用減の構造的な深さが見えてきます。
JR東日本の開示36路線71区間について、1987年度(国鉄分割民営化時点)と2024年度の輸送密度を比較すると、対象線区の平均で約74%の減少が確認できます。中でも津軽線(青森〜中小国)は10,813人/日から481人/日へと96%減、津軽線(中小国〜三厩)は1,186人/日から46人/日へと96%減で、ワースト1・2を占めています。
ワースト10には陸羽西線(新庄〜余目)と奥羽本線(新庄〜湯沢)の95%減、花輪線・陸羽東線・山田線の各区間が並びます。国鉄分割民営化時点では1日1,000〜3,000人台の輸送密度を持っていた線区が、38年で1日数十人〜数百人台まで縮小したという数字です。この減少幅は、沿線人口の減少だけでなく、自家用車の普及・道路網の整備・人口の都市集中といった複合要因が積み重なって生じています。
一方、ワースト10には入らない線区(磐越東線・水郡線・小海線等)でも、1987年比で50〜80%の減少を経験している区間が多く、ローカル線全体としての利用減は構造的です。輸送密度の戻りがほぼ期待できない状況で、各社が線区別収支を毎年公表する流れは、再構築協議会や上下分離方式といった次の運営形態の議論を前提とした情報開示の意味合いを強めています。
5社の集計基準|単純比較ができない理由

数字を比べる前に、各社の集計基準が違っていることを表で押さえておきます。期間・閾値・管理費の扱いが揃っていないため、「JR北海道はJR東日本より赤字が少ない」とは単純には言えません。
JR旅客5社の線区別収支データには、期間・開示閾値・管理費の扱いの3点で大きな違いがあります。JR西日本だけが2022〜2024年度の3か年平均を採用しており、他4社は2024年度単年度です。災害被災や工事による一時的な収支変動の影響を平均化する観点で3か年平均は理に適っていますが、他社の単年度値と直接比較すると年度差で差が出てしまいます。
開示閾値については、JR北海道とJR四国が「全線区」を開示している一方で、JR東日本・JR西日本・JR九州は「輸送密度2,000人/日未満の線区」のみを開示対象としています。これは「ご利用の少ない線区」に絞った開示方針で、新幹線・在来線本線などの黒字線区を含まないため、5社全体での収支構造の比較には別途新幹線等の数値を加える必要があります。
管理費・共通費の扱いも各社で異なります。JR北海道は本社・支社・管理本部の費用を含む「D=B+C基準」を採用し、JR四国は線区別の直接費に共通費を按分加算した数値、JR東日本・JR西日本・JR九州は本社・支社費用を除外した直接的な営業損益を採用しています。このため、同じ「営業損益△500億円」でも、含まれているコストの種類が異なります。本記事では各図解と本文中で集計基準差を明示していますが、他社比較を行う際は前提条件の照合が必須です。
楓のまとめ|赤字ローカル線の地理は北日本と中国・四国に集中

ここまでの横棒・タイルマップ・推移を一通り並べると、JR赤字ローカル線の構造が「地理的偏在」「線区別の極端化」「長期的な利用減」の3点に整理できます。
JR旅客5社のローカル線収支データを横棒・ランキング・タイルマップ・推移チャートで重ねると、赤字ローカル線が地理的にどこに集中し、どれだけ極端な数字を抱え、どんな長期トレンドの上に乗っているのかが立体的に見えてきます。数字に優劣をつけるのではなく、観察された事実そのものを整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、JR赤字ローカル線の問題は単一の指標で測れる事象ではなく、地理的偏在・線区別の極端化・長期的な利用減の3層が同時に進行している現象として整理できます。再構築協議会・上下分離方式・BRT転換といった政策的議論の背景には、本記事の図解で観察した数字の構造が横たわっています。今後、各社の集計基準の統一や、新幹線等の黒字線区を含む全体収支の透明性向上も含めて、ローカル線の存廃議論はより前提を揃えた形で進むことが期待されます。
よくある質問(FAQ)

JR赤字路線のデータを読むときは、「営業係数とは何か」「集計基準が違うこと」「JR東海の扱い」の3点をセットで押さえておくと、ニュース記事との突き合わせが楽になります。
Q1. JR各社の集計基準が違うのに、なぜ単純比較できないのですか?
対象期間・開示閾値・管理費の扱いの3点が異なるためです。JR西日本だけが2022〜2024年度の3か年平均を採用し、他4社は2024年度単年度です。JR北海道とJR四国は全線区を開示する一方、JR東日本・JR西日本・JR九州は輸送密度2,000人/日未満の線区のみを開示します。管理費もJR北海道は含む(D=B+C)、JR四国は共通費含む、JR東日本・JR西日本・JR九州は本社支社費用を除外しています。同じ「営業損益△500億円」でも、含まれるコストの範囲が異なります。
Q2. 営業係数とは何ですか?収支率との違いは?
営業係数は「100円の営業収入を得るのにかかる営業費用」を表す指標です。例えば営業係数500円なら、100円稼ぐのに500円の費用がかかっている=400円の赤字状態です。100円なら収支均衡、100円未満なら黒字を意味します。収支率は逆数の関係にあり、収支率20%(営業収入÷営業費用×100)≒営業係数500円と読み替えられます。営業係数は古くから鉄道事業者が使ってきた指標で、線区別の収支比較に広く用いられています。
Q3. 輸送密度の「2,000人/日未満」「1,000人/日未満」はどういう意味ですか?
輸送密度は「1日1キロメートルあたりの平均通過旅客人員」で、線区の利用度合いを表す指標です。国鉄分割民営化時の議論では、輸送密度4,000人/日未満が「赤字ローカル線」、2,000人/日未満が「特定地方交通線」、500人/日未満が廃止対象の目安とされてきました。現在のJR各社の開示閾値「2,000人/日未満」は、この特定地方交通線の基準を踏襲しており、「ローカル線」と一般的に呼ばれる線区の範囲を示しています。
Q4. JR東海はなぜ含まれないのですか?
JR東海は線区別収支を非開示としているためです。東海道新幹線の高収益(営業利益の大部分を占める)によって全社的に大幅な黒字を維持しており、線区別収支の開示を行っていません。そのため本記事の5社統合データには、飯田線・名松線・参宮線・関西線(亀山〜伊賀上野)等のJR東海エリア内のローカル線数字は含まれていません。
Q5. 「再構築協議会」とは何ですか?
正式名称は「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」に基づく再構築実施計画の協議会で、2023年10月の同法改正で創設された枠組みです。ローカル鉄道の存続のあり方について、鉄道事業者・沿線自治体・国の三者で協議する場として機能します。現在、JR西日本の芸備線(備後庄原〜備中神代)が再構築協議会で議論されている代表例で、BRT転換・上下分離方式・現行維持といった選択肢が検討されています。
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