
「日本の食料自給率はなぜ低いのか」という問いには、長期推移と品目別・都道府県別・諸外国比較の図解を並べるのが近道です。60年で何が下がり、何が下がらなかったかを一覧すると、食生活の変化と地理の二極構造がはっきり見えてきます。
日本の食料自給率は、長期的に見ると米の消費が減少する一方で畜産物や油脂類の消費が増大する食生活の変化により、低下傾向が続いてきました。農林水産省「令和6年度食料自給率について」(2025年10月10日公表)によれば、カロリーベース食料自給率は1965年度(昭和40年度)の73%から2024年度(令和6年度)の38%へと、60年で半分以下に低下しています。一方、生産額ベース食料自給率は同期間で86%→64%(▲22pt)にとどまり、物量と金額で見える景色は別物です。
本記事では、農林水産省「令和6年度食料自給率について」(参考1)と「食料需給表」をもとに、60年の推移(カロリー/生産額の2指標)、品目別自給率の60年推移、47都道府県別タイルマップ、諸外国との比較、食生活変化の構造、食料国産率との差を、6つの図解で整理します。数値はすべて2024年度(令和6年度)概算値および2023年度(令和5年度)都道府県別概算値に基づきます。
日本の食料自給率は60年で73%から38%へ。何が下がり、何が下がらなかったのか。
カロリーベースは半分以下に。生産額ベースは86%→64%で粘り、物量と金額で景色は別物。
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60年で73%→38%・カロリーベースは半分以下に

1965年から2024年までの60年を5年刻みで並べると、カロリーベースと生産額ベースの2つの指標が描く曲線がはっきり違うことが見えてきます。物量と金額、それぞれの軸で観察してみます。
農林水産省「令和6年度食料自給率について」(参考1)p6の食料自給率の長期的推移によれば、カロリーベース食料自給率は1965年度(昭和40年度)の73%から2024年度(令和6年度)の38%まで、60年間で35ポイント低下しました。1965年度から1990年度までの25年間で73%→48%へと25ポイント急落し、2000年代以降は40%前後で横ばいが続いています。2024年度の38%は2021年度から4年連続で同水準で、横ばい局面が定着しています。
一方、生産額ベース食料自給率は1965年度の86%から2024年度の64%へ、22ポイントの低下にとどまっています。近年は2020年度67%→2022年度58%(過去最低)→2024年度64%と、為替や国際価格の変動で振れ幅が大きく、2024年度は米・野菜・畜産物の国内価格上昇により国内生産額が増加して+3ポイントとなりました。物量と金額で見える景色は同じ方向に動いていても、低下幅の大きさは別物です。
品目別では米99%・小麦16%・大豆24%の二極化

総合指標だけでは見えない構造を、主要6品目の60年推移で確認していきます。60年でほとんど動かなかった品目と、大きく変化した品目が分かれます。
農林水産省「令和6年度食料自給率について」(参考1)p4および食料需給表の長期時系列によれば、2024年度の品目別カロリーベース自給率は、米99%・野菜75%・魚介類47%・砂糖類32%・果実27%・大豆24%・畜産物(飼料反映後)17%・小麦16%・油脂類4%です。米は60年間でほぼ完全自給を維持し、1965年度の約95%から2024年度の99%へとむしろ上昇しています。
対照的に、果実は1965年度の約90%から2024年度の27%へ▲63ポイントと最大の低下幅を示しました。畜産物は1965年度の約45%から2024年度の17%へ低下していますが、これは飼料自給率(26%)を反映した算定結果で、飼料分を除く食料国産率では2024年度65%となります。小麦・大豆は1965年度の時点ですでに低水準(28%・11%)で、構造的に60年間大きな変化はありません。
47都道府県別では北海道213%・東京0%の地理格差

47都道府県別のカロリーベース自給率をタイルマップで一覧すると、地理的な二極構造がそのまま現れます。上位8道県と下位8都府県を見比べてみてください。
農林水産省「令和6年度食料自給率について」(参考1)p9の都道府県別食料自給率(令和5年度概算値)によれば、100%を超えるのは北海道213%・秋田202%・山形148%・青森123%・新潟114%・岩手109%・佐賀102%の7道県のみです。上位は北海道・東北・北陸・九州(南部)に集中し、稲作地帯と畜産・農産物産地が大半を占めます。
一方、10%未満は東京0%・大阪1%・神奈川2%の3都府県で、これに埼玉10%が続きます。三大都市圏(東京・大阪・名古屋)はいずれも10%台以下で、人口集中地域と農業生産地域の二極構造が地理的に明瞭に固定化されています。都道府県別のデータは平成25年度以降も大きな変動はなく、地域格差は60年単位で見ても構造的なものといえます。
諸外国と比較すると先進国最低水準(カロリーベース)

日本の食料自給率を諸外国と比べると、指標の選び方で見える位置が変わります。カロリーベースと生産額ベース、2軸で並べて確認します。
農林水産省「令和6年度食料自給率について」(参考1)p12の諸外国の食料自給率(試算)によれば、2022年時点のカロリーベース食料自給率はカナダ247%・オーストラリア177%・フランス118%・アメリカ101%・ドイツ79%・イギリス59%・イタリア52%・スイス46%です。日本(2024年度38%)はスイス46%を下回り、表示された主要先進国で最低水準に位置します。
一方、生産額ベースで見ると日本64%はドイツ40%を上回り、イギリス60%・スイス52%とおおむね同水準です。国内消費人口の規模、輸出量、穀物・油糧種子の生産規模、野菜・果実・畜産物の付加価値などにより、カロリーベースと生産額ベースで国別順位は大きく入れ替わります。日本の自給率を「諸外国比較で低い」と言うとき、どちらの指標で比較しているかで結論は変わります。
食生活の変化が60年低下の構造要因(米▲58%・畜産物増加)

なぜカロリーベース自給率は60年で半分以下になったのか、要因は1人1日当たり供給熱量の品目別構成変化に表れています。1965年と2024年で何がどう動いたかを並べて見ます。
農林水産省「食料需給表」昭和40年度長期時系列および「令和6年度食料自給率について」p4によれば、1人1日当たり供給熱量の品目別構成は、1965年度には米が約1,186kcal(合計2,459kcalの約48%)を占めていました。2024年度には米は500kcalまで減少(▲58%)し、代わりに畜産物が117→401kcal(約3.4倍)、油脂類が140→310kcal(約2.2倍)に増加しました。
この食生活の構造変化が、カロリーベース食料自給率を60年で半減以下に押し下げた主因です。米はほぼ完全自給のため、米の供給熱量が減るほどカロリーベース自給率は下がります。畜産物は飼料の多くを輸入に頼るため、消費量が増えても国産扱いになる熱量は限定的です。油脂類は原料の大豆・なたねの多くを輸入しており、自給率4%にとどまります。食生活の欧米化が、自給率の構造的低位を生み出しました。
畜産物の自給率17%は飼料が輸入由来・食料国産率では65%

畜産物の自給率17%は低く見えますが、これは飼料自給率(26%)を反映した算定結果です。飼料分を除いた「食料国産率」で見ると、畜産物の見え方は大きく変わります。
農林水産省「令和6年度食料自給率について」(参考1)p7の飼料自給率・食料国産率によれば、畜産物の食料自給率17%と食料国産率65%の差(+48pt)は、飼料の多くを輸入飼料に頼っている構造を反映しています。鶏卵は食料国産率98%でほぼ完全国産、牛肉は50%、豚肉48%、鶏肉64%、牛乳・乳製品64%です。
飼料自給率(可消化養分総量・TDN換算)は2024年度26%で、前年度から1ポイント減少しました。粗飼料自給率は80%と高い一方、濃厚飼料自給率は13%にとどまり、輸入穀物(とうもろこし等)への依存が構造化しています。食料・農業・農村基本計画(令和7年4月11日閣議決定)では2030年度の自給率目標としてカロリーベース45%・生産額ベース75%が設定されており、現状からの引き上げには飼料自給率の改善と国内畜産業の生産基盤強化が課題になります。
楓のまとめ|カロリーと生産額の2指標と地理の二極構造で見える景色

ここまでの推移と地域差・諸外国比較を一通り並べると、食料自給率という単一指標で語れる話ではないことが見えてきます。3つの観察事実に整理してみます。
「日本の食料自給率はなぜ低いのか」という問いに対して、本記事で並べた図解は、60年の推移・品目別・地域別・諸外国比較・食生活変化・飼料の構造、それぞれが別の物語を語ることを示してきました。指標の選び方・期間の取り方・比較対象によって、見え方は変わります。データそのものに優劣をつけるのではなく、見え方の違いを観察事実として整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、日本の食料自給率は単一の数字で「低い/高い」と語れる指標ではなく、指標の取り方・期間の取り方・比較対象の選び方によって異なる景色が現れる、複層的な現象として整理できます。食生活の60年変化と地理の二極構造、飼料を介した輸入依存の連鎖が、現在の38%という数字の背景にあります。2030年度政策目標であるカロリーベース45%・生産額ベース75%に向け、どの指標を、どの地域で、どの品目で動かしていくのかが、これからの選択になります。
よくある質問(FAQ)

食料自給率のニュースを読むときは、指標の種類(カロリー/生産額/摂取熱量)・期間の取り方・品目別か総合かの3点をセットで確認してください。同じデータでも、この3点が変わるだけで読み取れる物語が変わります。
Q1. 日本の食料自給率はどのくらいですか?
2024年度(令和6年度)の概算値は、カロリーベース38%・生産額ベース64%・摂取熱量ベース46%です。カロリーベース38%は2021年度から4年連続で同水準で、横ばい局面が続いています。生産額ベースは前年度比+3ポイント上昇しました。出典は農林水産省「令和6年度食料自給率について」(2025年10月10日公表)。摂取熱量ベース食料自給率は今年度から新設された指標で、分母を「平時における国民の日常生活に必要な摂取熱量」1,850kcalに固定して算定されます。
Q2. なぜ食料自給率は60年で半分以下に下がったのですか?
主因は食生活の変化と飼料自給率の低さです。1965年度には米が1人1日当たり約1,186kcal(合計2,459kcalの約48%)を占めていましたが、2024年度には500kcalまで減少しました。代わりに畜産物が117→401kcal(約3.4倍)、油脂類が140→310kcal(約2.2倍)に増加しました。畜産物は飼料の多くを輸入に頼っているため、国内で生産しても飼料自給率(26%)を反映した自給率は低くなる構造です。油脂類は原料の大豆・なたねの大部分を輸入しています。
Q3. 食料自給率が高い都道府県はどこですか?
2023年度(令和5年度)概算値では、北海道213%が最高、続いて秋田202%・山形148%・青森123%・新潟114%・岩手109%・佐賀102%の順で、100%超は計7道県です。一方、東京0%・大阪1%・神奈川2%・埼玉10%が下位で、三大都市圏はいずれも10%台以下にとどまります。上位は稲作地帯と畜産・農産物産地、下位は人口集中地域で、地理的な二極構造が固定化されています。出典は農林水産省試算(農林水産省→EYストラテジー・アンド・コンサルティング業務委託)。
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