
「警察官の不祥事は本当に増えているのか」という問いには、年ごとの推移ラインと事由別の横棒を並べて見ると、増えた量と中身の両方が一度で見えてきます。長期トレンドと事由別内訳を重ねることで、ニュースで切り取られる断片では分かりにくい全体像がはっきり浮かびます。
警察庁が2026年2月5日に公表した「令和7年中の懲戒処分者数」によれば、2025年(令和7年)に懲戒処分を受けた全国の警察職員は337人で、前年比+98人と3年ぶりに増加に転じ、過去10年で最多を記録しました。上半期(2025年1〜6月)の時点ですでに154人と、150人を超えるのは193人だった2013年以来のことで、年央時点で異例の高水準でした。2025年の懲戒処分者数は、件数そのものの増加と、最大増加事由が「職務放棄・懈怠等」(前年比+37人)であるという中身の両面で、過去10年とは異なる動きを示しています。
本記事では、警察庁公式の懲戒処分者数データ(通年・上半期・都道府県別・事由別・処分別)を、推移ライン・47都道府県タイルマップ・2024→2025ビフォーアフター・14事由別横棒・処分別6年スタックバーの5種類の図解で整理します。R3(2021年)の底からR7(2025年)の最多まで6年スパンで何が変わったか、47都道府県のどこで何人増えたか、どの事由が前年比でどれだけ増えたか――一次データを多角的に並べることで、2025年の急増の輪郭を観察していきます。
警察官の不祥事は、本当に増えているのか?
2025年は337人で、過去10年で最多。前年比+98人で3年ぶりに増加に転じた。
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全国の懲戒処分者数はどう推移したか|過去6年と2025年の急増

6年分の推移を1枚で見ると、R3(2021年)の底からR7(2025年)の頂までの上昇カーブが、業務上と私行上の2本の補助線とあわせてはっきり見えます。コロナ禍の低位から3年ぶりに急増した形は、表よりも折れ線で見るほうが角度が掴みやすいです。
警察庁の公式統計を6年連続で並べると、全国警察職員の懲戒処分者数は、R2(2020年)229人を起点に、R3(2021年)には204人まで減少しました。新型コロナ感染症の影響で接触機会が減ったR3は、過去10年で最も少ない水準で、警察組織の規律違反も外出自粛と歩調を合わせるように低位に落ち着きます。
しかしR4(2022年)以降、流れは反転します。R4は276人と一気にR2を超え、R5(2023年)266人、R6(2024年)239人と、ピーク水準には届かないものの200人台後半が常態化していきました。そしてR7(2025年)は337人と前年比+98人(+41%)の急増を記録し、3年ぶりに増加に転じて過去10年最多を更新します。R3の底204人から見ると4年間で133人の増加で、コロナ禍前の水準を大きく上回る形になりました。
増加の内訳を業務上(職務上の規律違反)と私行上(職場外の行為)に分けると、R7は業務102人・私行235人で、業務はR2の48人から倍増、私行はR2の181人からおよそ1.3倍に膨らんでいます。業務上の増加幅が私行を上回る年は珍しく、勤務時間中の規律問題が単年度で突出して増えたことが2025年の特徴です。
年央時点ですでに兆候はあった|8年分の上半期推移

通年データだけでは「年末に集中したのか、年初から多かったのか」が分かりません。同じ集計を上半期だけで8年分並べると、2025年が年央時点ですでに突出していたことが見えてきます。
警察庁が2025年7月24日に公表した「令和7年上半期の懲戒処分者数」では、2025年1〜6月の処分者数は154人で、前年同期比+40人の増加でした。8年分の上半期データを並べてみると、H30(2018年)121人・R1(2019年)113人・R2(2020年)114人とほぼ横ばいで推移し、R3(2021年)81人で底をつけたあと、R4〜R6は116〜117人で安定していました。そこから一段ジャンプしたのがR7上半期の154人で、150人超えは193人を記録した2013年以来12年ぶりです。
警察庁は同日付の通達「警察職員の一層の綱紀粛正の再徹底について」で、R7上半期の処分者数が過去10年で最多になったことを「極めて憂慮すべき状況」と表現し、勤務状況の確認のための巡視・人の住居等における捜査活動の相互確認など、業務上の非違事案防止に係る取組を全国警察に通達しました。年央時点で公式に「過去10年最多」と認定された上半期の流れは、後半でさらに+183人を積み増し、通年337人という結果につながっています。
都道府県別に見る|兵庫の突出と「絶対数」「職員数比」の両指標

47都道府県別の処分者数を1枚のマップに落とすと、突出県と少数県の分布がひと目で分かります。ただし、絶対数だけだと「職員数の多い大都市圏」と「少数県警」を同じ目盛で比べることになります。本記事では絶対数マップと「警察職員1000人当たり処分者数マップ」を併載して、両方の角度から地域差を観察します。
47都道府県別の絶対数を見ると、最多は兵庫県50人、次いで神奈川県34人、警視庁30人、大阪府26人、福岡県18人と、上位5都道府県だけで158人と全体の約47%を占めています。兵庫県50人は単一県で全国合計337人の約15%を占める突出した水準です。鹿児島県警の元巡査長による盗撮事件など、社会的に注目された個別事案が複数の県で重なったことも、上位県の数字を押し上げる一因です。
一方、宮城・山形・栃木・岐阜・島根・香川・佐賀・大分の8県は処分者数が1人にとどまり、最少クラスに位置します。47都道府県と警察庁本庁を合わせた48組織のうち、処分者が0人だった組織はR7にはありませんでした。2024年(R6)に「0人」だった山形・和歌山・鳥取・徳島の4県は、すべて2025年に1人以上の処分者が発生しています。0人県の消滅は、不祥事の発生分布が局所的に集中する状態から、全国に広く薄く分散する局面に入ったことを示します。
都道府県別の数字を読むときは、警察職員の絶対数と地域の人口規模に注意が必要です。兵庫・神奈川・大阪・東京は警察職員数も人口も多く、処分者数の絶対値が大きくなりやすい構造があります。そこで、処分者数を都道府県警察の職員数で割った「警察職員1000人当たり処分者数」で見ると、地域間の比較は大きく姿を変えます。

絶対数の地図と職員数比の地図を並べると、印象が大きく変わります。神奈川や警視庁が「職員数の多さ」で絶対数を膨らませていた一方、岩手や鳥取のように職員数の少ない県では小さな絶対数でも比率が高く出るためです。
2025年(R7)の処分者数を、都道府県警察の職員数(2023年・e-Stat 政府統計の警察部門職員数)で割った 1000 人当たり処分者数を計算すると、TOP 8 は兵庫 4.00 人、岩手 2.88 人、鳥取 2.74 人、長崎 2.27 人、青森 2.24 人、富山 2.19 人、神奈川 1.95 人、三重 1.75 人となります。兵庫県だけが絶対数(50 人で 1 位)と職員数比(4.00 で 1 位)の両指標で 1 位を維持しており、規模補正をかけても「兵庫の突出」は揺るがない結果になりました。
一方、絶対数の上位だった警視庁(30 人)は職員総数 約 47,300 人で割ると 0.63 / 1000 人と中位水準まで下がり、大阪府(26 人)も職員総数 約 23,100 人で 1.12 / 1000 人と中位に位置します。神奈川県は絶対数 34 人で 2 位だったところ、職員数比では 7 位に下落します。逆に岩手・鳥取・長崎などの小規模県警は、絶対数では中位〜下位だったものが、職員数を分母に取ると上位 5 位以内に入ってきます。絶対数と職員数比のどちらを採るかで「地域差の地図」は別物になるという点は、都道府県別の処分者数を読むときに最も注意したい構造です。
なお、分子の処分者数は 2025 年(令和 7 年)、分母の警察部門職員数は 2023 年(令和 5 年)と基準年に 2 年差があります。警察職員数は地方警察官の定員条例で定められており単年で大きく変動しない指標のため、2 年差は概算用途では許容範囲ですが、より厳密な比較には警察庁公式の同年職員数データが望まれます。本記事の 1000 人当たり値は、絶対数だけで読みがちな「地域間の規律問題」をスケール補正で見直すための参考指標として位置付けています。
2024→2025の対比|変化幅が大きかった都道府県

都道府県ごとに「2024年(R6)と2025年(R7)でどれだけ変わったか」を、上下のバーで対比してみます。変化幅が大きい順に並べると、兵庫の+30人と愛知の-7人が両極にあることが見えてきます。
前年比の変化幅が最も大きかったのは兵庫県で、R6の20人からR7の50人へと+30人の急増、次いで神奈川県がR6の12人からR7の34人へと+22人の増加でした。大阪府(+12)、警視庁(+10)、静岡県(+6)、埼玉県(+5)、岩手県(+4)、北海道(+3)、長崎県(+3)と、上位9都道府県だけで全国増加分98人のうち95人(約97%)を占めています。2025年の急増は全国に均等に広がったわけではなく、限られた都道府県に集中的に発生している構造です。
一方で、すべての都道府県が増加したわけではありません。福岡県はR6・R7とも18人で横ばい、愛知県はR6の14人からR7の7人へと-7人の最大減を記録しました。福岡・愛知のような大都市圏で増加が止まる、あるいは減少に転じた一方、兵庫・神奈川・大阪が大きく伸びる、という分布の偏りは、全国一律の規律問題ではなく特定の都道府県警察内部での個別事案の積み重ねが、2025年の合計値を押し上げた可能性を示唆します。
事由別の内訳|「職務放棄・懈怠等」が前年比+37で最大増加

337人の処分が「何が原因で」発生したのかは、14分類の事由別表を横棒で並べると一目で分かります。バーの長さで人数、色で前年比増減を示すことで、増えた中身がどこに偏っているかが見えてきます。
事由別では「異性関係」が104人で最多事由、続いて「窃盗・詐欺・横領等」63人、「職務放棄・懈怠等」44人、「交通事故・違反」40人と続きます。前年比で最大の増加を記録したのは「職務放棄・懈怠等」の+37人で、R6の7人から5倍以上に膨らみました。警察庁が2025年7月24日に発出した綱紀粛正通達では、勤務時間中のスマートフォン遊戯などを「職務放棄・懈怠」の典型例として例示しており、業務時間外活動の管理の難しさが浮き彫りになった事由群といえます。
次に増加幅が大きかったのは「異性関係」の+26人(R6 78→R7 104)、「その他法令違反等」の+13人、「窃盗・詐欺・横領等」の+11人で、上位5事由のうち4つが前年比で増加しています。「異性関係」には盗撮やセクハラなどが含まれ、3年連続で最多事由の座を維持しています。一方で「職権濫用・収賄供応等」は-3人、「被疑者事故等」は-1人、「情報管理・取扱不適切」は-2人と減少した事由もあり、全事由が一律に増えたわけではありません。
注目すべきは「公文書偽造・毀棄、証拠隠滅等」が前年比+8人で11人に増加した点です。これは令和2年(2020年)以降では最多水準で、刑事司法の根幹に直結する事由が前年から大きく伸びたことになります。「監督責任」「物品管理不適切等」「情報管理・取扱不適切」の3事由は処分者0人で、ガバナンス系の事由は引き続き低水準を維持しました。2025年の事由別増加は、業務遂行の規律と私行上の倫理の両面で広く発生しています。
処分の重さ別の構造|免職・停職・減給・戒告のバランス変化

337人の処分が、どの重さの処分で構成されているかも見ておきます。免職(最重)から戒告(最軽)まで4段階を6年スタックで並べると、2025年の増加幅がどの処分種で吸収されたかが分かります。
2025年の処分内訳は免職44人・停職97人・減給144人・戒告52人で、最も増えたのは減給の+40人でした。免職も+14人で44人に達し、停職+21人、戒告+23人と、4つの処分種すべてで前年を上回っています。過去10年最多となる337人は、特定の処分種に偏らず4種類全体が同時に増加した構造で、軽微な事案だけでなく重大な事案も同時に増えたことを示しています。
6年スパンで見ると、減給がR2(2020年)の約98人から2025年の144人へと約1.5倍に増加し、最も伸びた処分種となりました。免職もR2の約30人からR7の44人へと+14人増えており、特にR7だけで前年から+14と一気にジャンプしています。停職の97人もR2比で約1.4倍の水準で、戒告52人はR2比+62%と最大の伸び率を記録しました。「重い処分から軽い処分まで全体が増える」というパターンは、組織内の規律違反が量と質の両面で広がっている兆候として読み取れます。
楓のまとめ|2025年が突出した3つの理由

ここまでの推移と地域差・事由別・処分別を一通り並べると、2025年が過去10年で突出した理由が3つの観察事実に整理できます。データそのものに評価をつけるのではなく、見え方の違いを観察事実として並べていきます。
「警察官の不祥事は増えているのか」という問いに対して、本記事で並べた図解は、2025年(令和7年)が単年で過去10年最多に達した複数の側面を示してきました。年合計337人という数字は、6年スパンの推移・47都道府県別の分布・14事由別の増減・4段階処分別の構成のいずれで切り取っても、過去年とは異なる輪郭が浮かびます。3つの観察事実に整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、2025年の急増は「特定の事由が爆発的に増えた」一点突破型ではなく、複数事由・複数都道府県・複数処分種が同時に上振れた重層的な急増として整理できます。「警察官の不祥事は増えているのか」への答えは、2025年単年で見れば過去10年最多で明確に増加、6年スパンで見ればR3の底204人から急速に積み上がった結果、ということになります。来年以降にこの増加が一過性のものか持続するかを観察するうえでは、上半期データの動向と都道府県別の集中度の変化が、特に重要な早期指標になります。
よくある質問(FAQ)

懲戒処分者数のグラフを読むときは、対象範囲・処分の定義・前年比の3点をセットで確認してください。同じデータでも、この3点が変わるだけで読み取れる物語が変わります。
Q1. 警察官の懲戒処分はなぜ2025年に急増したのですか?
単一の原因ではなく、複数事由・複数都道府県の同時上振れが重なっています。事由別では「職務放棄・懈怠等」が前年比+37人と最大増で、勤務時間中のスマートフォン遊戯などが警察庁通達で例示されました。「異性関係」も+26人で104人に達し、3年連続で最多事由を維持しています。都道府県別では兵庫+30、神奈川+22、大阪+12など、上位都道府県警に集中する形でした。警察庁は2025年7月24日の通達で「組織全体の規律の弛緩が懸念される」と表現し、人の住居等での捜査活動における相互確認や勤務状況巡視を全国に通達しています。
Q2. 「過去10年最多」とは具体的に何を指していますか?
警察庁の公式PDFと過去の年次データを比較した結果、2025年の337人はR2(2020年)以降の通年データのなかで最大の水準であり、また警察庁が公式に「過去10年最多」と表現したことを指しています。さらに上半期154人については「150人超は2013年以来12年ぶり」とも明示されており、単年度・上半期の両指標で過去10年の頂点を更新しました。なお、警察職員の懲戒処分者数は警察庁公式統計(通年は毎年2月、上半期は毎年7月)として継続公表されており、定義変更などはなく時系列での比較が可能なデータです。
Q3. 都道府県別の処分者数は職員数比で見るとどう評価すべきですか?
本記事では絶対数マップと「警察職員 1000 人当たり処分者数マップ」の両方を併載しています。絶対数は警察職員総数(職員数)の多寡を反映するため、東京(警視庁・職員約 47,300 人)や大阪(約 23,100 人)が上位に来る構造があります。一方、職員数を分母に取る 1000 人当たり処分者数では、兵庫 4.00 人が引き続き 1 位を維持する一方、岩手 2.88 人・鳥取 2.74 人・長崎 2.27 人・青森 2.24 人など、絶対数では中位だった小規模県警が上位に入り、警視庁は 0.63 人で中位、大阪は 1.12 人で中位に位置します。「絶対数」と「職員数比」のどちらを採るかで地域差の印象は変わるため、本記事ではこの両指標を並べて観察できる構造にしています。
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