
熱中症の搬送者数は、単年のニュースだけでは全体像が見えにくいテーマです。平成20年から続く消防庁の年別推移を1枚に並べると、2025年の「初の10万人超え」がどの位置で起きたのかがはっきり見えてきます。
熱中症による救急搬送者数(全国・5〜9月)は、2025年に100,510人となり、総務省消防庁が調査を開始した2008年(平成20年)以降で初めて10万人を超えました。同じ5〜9月調査となった2015年の55,852人と比べると約1.8倍です。客観データの上でも、2025年は熱中症の救急搬送が調査開始以降で最も多い年になりました。
本記事では、総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和7年10月29日発表・確定値)を軸に、18年の年別推移、夏の平均気温偏差との重なり、月別の山、年齢区分・発生場所・都道府県別の内訳までを図解で整理します。調査期間が年により異なる点も、図中と本文の両方で注記しながら観察していきます。
熱中症による救急搬送者数は、どう推移してきたのでしょうか?
2025年は100,510人で、調査開始以降初めて10万人を超えました。同じ5〜9月調査の2015年と比べて約1.8倍です。
出典:総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和7年10月29日発表・確定値)/気象庁「日本の季節平均気温偏差」(夏・基準値1991〜2020年平均)
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
本記事は楓が調査・編集しています。掲載情報は執筆時点のものです。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
熱中症による救急搬送者数の推移|2008年から2025年への18年

18年の推移は縦棒で並べると、2018年に一段切り上がり、2025年に初めて10万人の線を越えた形が一目で分かります。調査期間の違いはバーの色分けで示しています。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
総務省消防庁の調査によれば、熱中症による救急搬送者数(全国)は2008年の23,071人から始まり、猛暑となった2010年に56,119人へ増えました。その後は4万〜5万人台を行き来し、調査期間が5〜9月に拡大された2015年は55,852人でした。2018年には95,137人と初めて9万人台に達し、それまでの水準から一段切り上がりました。
2019年以降は7万人前後から4万人台まで上下しましたが、2022年の71,029人からは増加が続きます。2023年91,467人、2024年97,578人、そして2025年は100,510人と、前年比+2,932人(+3.0%)で調査開始以降の最多を更新しました。消防庁の公式表現でも「調査を開始した平成20年以降で最も多い」とされています。
なお、この調査の対象期間は年により異なります。2008〜2009年は7〜9月、2010〜2014年は6〜9月、2015年以降は5〜9月(2020年のみ6〜9月)です。期間が長い年ほど数字が積み上がりやすいため、単純比較には期間差があります。同じ5〜9月調査どうしで比べると、2015年の55,852人から2025年の100,510人へ約1.8倍という変化になります。
長期の気象データを年ごとに並べて観察する記事としては、台風の上陸時中心気圧を74年分たどった記事もあわせてご覧ください。

夏の平均気温偏差との重なり|2015年から2025年

搬送者数と気温偏差を上下に並べると、2本の系列が同じ年に山をつくる様子が見えてきます。とくに2023年以降の3年は、両方の指標がそろって高い位置にあります。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
気象庁によれば、2025年夏(6〜8月)の日本の平均気温は、基準値(1991〜2020年平均)からの偏差が+2.36℃で、1898年の統計開始以降で最も高くなりました。それまで最高だった2023年・2024年の+1.76℃を0.60℃上回り、3年連続で記録を更新しています。
この気温偏差の系列を搬送者数と重ねると、偏差が+1.76℃だった2023年・2024年に搬送者数は9万人台へ、+2.36℃の2025年に10万人台へと推移しています。偏差の高い年に搬送者数も多い傾向が、11年分の並びから観察できます。因果関係を特定する統計ではありませんが、2つの系列が並行して動いてきたことは図解のとおりです。
気温の長期推移そのものは、世界と日本の100年超のデータを別記事で図解しています。あわせてご覧いただくと、2025年の夏がどのような位置にあるのかを、より長い物差しで確認できます。

2025年の月別搬送者数|山は7月、記録は6月

月別の縦棒は、7月の高い山と、その手前の6月の高さが特徴です。6月としては調査開始以降で最も多く、9月も過去2番目の水準でした。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
2025年の月別内訳は、5月2,614人、6月17,229人、7月39,375人、8月31,526人、9月9,766人です。最も多いのは7月ですが、6月の17,229人は月別で調査開始以降の過去最多、9月の9,766人は過去2番目でした。気象庁によれば2025年は多くの地方で梅雨明けが統計開始以降最も早く、暑さの立ち上がりが早い年でした。季節の入口と出口の両方で搬送者数が膨らんだ形です。
消防庁の年報では、熱中症警戒アラートの発表回数が過去最多となったことにも触れられています。5月から9月までの153日間で100,510人という規模は、1日あたり約657人、およそ2分強に1人が熱中症で救急搬送された計算です(筆者試算・計算式はファクトチェック欄に記載しています)。
年齢区分別に見る|搬送者の57.1%は高齢者

年齢の内訳は5年分の帯で並べると、高齢者の帯の割合がほとんど変わらないまま、全体の人数だけが増えてきたことが分かります。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
2025年の搬送者100,510人のうち、65歳以上の高齢者は57,433人で全体の57.1%を占めます。成人は34,096人(33.9%)、少年は8,447人(8.4%)、乳幼児は531人(0.5%)でした。高齢者の構成比は2021年以降、おおむね55〜57%の範囲で安定しています。
一方で絶対数の変化は大きく、高齢者の搬送者は2021年の26,942人から2025年の57,433人へと4年で約2.1倍になりました。構成比が安定したまま全体が増えたため、増加分の多くを高齢者が占める構図が続いています。
発生場所別に見る|最多は住居の38.1%

発生場所の横棒は、炎天下の道路や屋外よりも先に、住居の棒が最も長く伸びているのが特徴です。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
2025年の発生場所別では、住居(敷地内全ての場所を含む)が38,292人(38.1%)で最多でした。道路19,773人(19.7%)、屋外の公衆の場所12,175人(12.1%)、道路工事現場や工場などの仕事場①10,559人(10.5%)が続きます。炎天下の屋外というイメージに対し、公式データで最も多い発生場所は住居です。
傷病程度別では、軽症が63,447人(63.1%)と過半を占める一方、入院が必要とされる中等症は34,399人(34.2%)、重症は2,217人(2.2%)でした。中等症以上を合わせると約36%、およそ3人に1人にのぼります。死亡は117人(0.1%)で、これは初診時に死亡が確認された搬送者を数えたものです(定義の詳細はファクトチェック欄に記載)。予防や対処の具体的な方法は、消防庁や環境省が公式サイトで案内しています。
都道府県別に見る|上位は人口の多い都府県

都道府県別の横棒は上位10だけを並べています。順位のならびは、各都道府県の人口規模とよく重なります。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
2025年の都道府県別では、東京都9,315人、大阪府7,202人、愛知県6,653人、埼玉県6,141人、神奈川県4,972人が上位5都府県でした。この値は人口で調整していない実数のため、順位は各都道府県の人口規模を強く反映しています。人口の少ない県で搬送が少なく見えても、住民1人あたりの起きやすさが低いとは限りません。
楓のまとめ|18年の推移が示す2025年の位置

推移・気温・内訳を一通り並べてきました。観察できた事実を3点に整理します。
熱中症による救急搬送者数は、単年のニュースでは「過去最多」という言葉だけが目立ちますが、18年の推移に置くと、水準の切り上がりと記録更新がどの位置で起きたのかが見えてきます。数字の評価は読者に委ね、観察できた事実だけを整理しておきます。
3つの観察事実を重ねると、2025年の記録は、記録的な高温の夏と、高齢者・住居という日常の場面の重なりの上に成り立っていることが分かります。熱中症の搬送は真夏の屋外だけの出来事ではなく、季節の入口から、住居の中でも起きています。予防の具体的な方法については、消防庁・環境省の公式情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)

熱中症のデータを読むときは、調査期間・数値の定義・気温との関係の3点を確認しておくと、年ごとの比較がぐっと正確になります。
Q1. 2025年はなぜ過去最多になったのですか?
単一の理由を特定できる統計ではありませんが、気象庁の統計では2025年夏の平均気温偏差が+2.36℃と1898年以降で最も高く、多くの地方で梅雨明けも統計開始以降最も早い年でした。本記事の図解でも、偏差の高い年に搬送者数が多い傾向が観察できます。また6月が月別で過去最多となるなど、暑さの立ち上がりの早さが年間の積み上がりに表れています。
Q2. 死亡117人とはどのような数字ですか?
消防庁の調査における「死亡」は、初診時に死亡が確認された搬送者を数えたものです。医療機関へ搬送された後に亡くなった方は含まれません。厚生労働省の人口動態統計にも熱中症による死亡数の統計がありますが、定義と集計方法が異なる別系列のため、両者の数字を直接比較したり合算したりすることはできません。
Q3. 調査期間が年によって違うのはなぜですか?
消防庁の調査は2008年に7〜9月で始まり、2010年に6〜9月、2015年に5〜9月へと対象期間が拡大されてきました(2020年のみ6〜9月)。期間が長い年ほど数字が積み上がりやすいため、年をまたいで比べるときは、同じ期間の年どうしで比較するのが安全です。本記事の図解では、期間の違いをバーの色分けと注記で示しています。
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