
「差はいくらか」を確かめるいちばんの近道は、同じ調査・同じ定義の月給を1枚の図に並べることです。保育士・介護職員・全産業平均を同じ物差しでそろえると、月額の差も、年収での広がり方も、数字で測れるようになります。
「保育士や介護士の給料は安い」と言われますが、実際の差はどれくらいなのでしょうか。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(2026年3月24日公表・確定値)では、月給(きまって支給する現金給与額・男女計・企業規模10人以上・一般労働者)は保育士が28.6万円、介護職員(医療・福祉施設等)が27.8万円、全産業平均(産業計)が37.1万円でした。同じ調査・同じ定義で並べると、全産業平均との月額差は保育士で約8.5万円、介護職員で約9.3万円です。
年間賞与その他特別給与額を含めた年収換算(きまって支給×12+年間賞与・筆者試算)では、差は保育士で約118万円、介護職員で約158万円に広がります。本記事では、この差の中身を、同一定義の3者比較、年収換算と差の内訳分解、全産業賃金の25年推移、処遇改善の制度年表など6つの図解で観察整理していきます。
保育士や介護職員の賃金は、全産業の平均とどれだけ差があるのか。
月給の差は約8.5万円。年間賞与を含めた年収換算では約118万円に広がる。
差約8.5万円(月額・介護職員では約9.3万円)
本記事は楓が調査・編集しています。掲載情報は執筆時点のものです。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
何のデータで比べるのか|賃金構造基本統計調査と3つの給与指標

「差がいくらか」の前に、どの物差しで測っているのかをそろえる必要があります。3つの給与指標の包含関係を1枚の帯図にすると、サイトごとに数字が食い違う理由も見えてきます。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
本記事の主役データは、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」です。毎年6月分の賃金を、企業規模10人以上の事業所で働く一般労働者(短時間労働者を除く労働者)について調べたもので、令和7年調査は2025年6月分を対象に、2026年3月24日に確定値が公表されました。本記事の数値はすべて男女計・企業規模計(10人以上)です。
給与の指標は3つあります。「所定内給与額」は残業代などを除いた毎月の給与、「きまって支給する現金給与額」は所定内給与額に残業代などの超過労働給与額を加えた月々の支給総額、「年間賞与その他特別給与額」は前年1年間の賞与などの合計です。いずれも税金や社会保険料を差し引く前の金額で、いわゆる手取りとは異なります。
職種別の数値は「一般労働者・職種 第1表」から、全産業平均は「一般労働者・産業別 第1表」の産業計(民営事業所)から取りました。表は分かれていますが、調査・年・給与の定義・集計の枠(一般労働者・男女計・企業規模10人以上)はすべて同じです。ネット上の記事で「差」の金額が食い違う主な理由は、この指標や調査の混在にあります。国税庁の民間給与実態統計や厚生労働省の介護従事者処遇状況等調査は体系が異なる別の調査のため、本記事では主役数値に使いません。
保育士・介護職員・全産業平均|同じ定義で月給を並べる

同じ調査・同じ定義の月給を、同一スケールの横棒で並べます。全産業平均の点線を基準に置くと、差の大きさがそのまま目で測れます。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
月給(きまって支給する現金給与額)で並べると、保育士は285.7千円(28.6万円)、介護職員(医療・福祉施設等)は277.7千円(27.8万円)、全産業平均(産業計)は370.5千円(37.1万円)でした。全産業平均との月額差は、保育士で84.8千円(約8.5万円)、介護職員で92.8千円(約9.3万円)です。
第1表には平均年齢と平均勤続年数も併載されています。保育士は40.3歳・勤続9.1年、介護職員は45.3歳・勤続9.0年、全産業平均は44.4歳・勤続12.7年です。全産業側は勤続年数が3年以上長く、この比較は年齢構成や勤続の違いを含んだ単純比較である点に注意が必要です。
なお、本記事の「介護職員(医療・福祉施設等)」は、施設などで介護に従事する職員を指す調査上の職種名です。一般に「介護士」と呼ばれる仕事のうち、訪問介護に従事する人は「訪問介護従事者」として別に集計されており、月給は281.6千円(28.2万円)でした。
賞与を含めるとどうなるか|年収換算の差とその内訳

月給の差は12倍になって年収に積み上がります。年収換算の3本と、差を「月給差×12」と「賞与差」に分けた積み上げ棒をセットで見ると、差の生まれ方が分かります。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
年収換算は、きまって支給する現金給与額×12に年間賞与その他特別給与額を加えて算出しました(公表値のみを使った筆者試算です)。保育士は427.6万円、介護職員は388.0万円、全産業平均は545.6万円となり、全産業平均との差は保育士で約118万円、介護職員で約158万円に広がります。
差の内訳を分解すると、保育士では「月給差×12」が約101.8万円、「年間賞与の差」が約16.2万円で、年収差の8割超は月々の給与差の積み上げから生まれています。介護職員では月給差×12が約111.4万円、賞与差が約46.2万円で、賞与差の寄与が保育士より大きくなっています。
年間賞与そのものを見ると、保育士は847.9千円(約84.8万円)で、全産業平均の1,009.6千円(約101.0万円)との差は161.7千円にとどまります。一方、介護職員(医療・福祉施設等)の年間賞与は547.8千円(約54.8万円)で、全産業平均との差は461.8千円でした。同じ福祉の現場でも、賞与の水準は職種によって大きく異なります。
全産業の賃金はどう動いてきたか|2001年からの25年

比較のもう一方の側、全産業の賃金そのものの動きです。25年の折れ線にすると、長い横ばいと2022年以降の急な伸びが1本の線に現れます。この図の指標だけ「所定内給与額」に切り替わる点にご注意ください。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
比較のもう一方の側である全産業の賃金は、この25年でどう動いてきたのでしょうか。ここでの「賃金」は概況で使われる所定内給与額(残業代などを除く6月分の給与・一般労働者・男女計)で、これまでの図の「きまって支給」とは指標が変わります。2001年の305.8千円から2000年代を通じて300千円前後で推移し、2009年には294.5千円まで下がりました。
その後も2021年まで295〜308千円の狭い範囲での動きが続きましたが、2022年以降は311.8千円、318.3千円、330.4千円、340.6千円と毎年伸びています。2022年から2025年までの3年間で、全産業の賃金は28.8千円(約9.2%)上がりました。比較の相手である全産業側が急速に動いているため、保育士や介護職員との「差」も、どの年の数字かによって変わります。
長期推移を読む際の注意点が2つあります。2018年以前は調査対象産業の範囲が一部異なり、2020年には推計方法が変更されています。厳密に連続した系列ではありませんが、水準感の推移を見る目的で、厚生労働省の概況が同じ表に並べている公表値をそのまま用いました。
処遇改善のあゆみ|実施されてきた制度を年表で

金額の前に、どんな制度がいつ実施されてきたのかを年表で押さえます。保育と介護で別々に進んできた経緯を、1本の時系列に並べました。制度の効果の評価はせず、事実と時期のみの整理です。
出典:こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について」/厚生労働省「介護職員等処遇改善加算」リーフレット
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
介護分野の処遇改善は、2009年度の介護職員処遇改善交付金に始まり、2012年度に介護報酬の加算へ移行しました。2019年10月には経験・技能に着目した特定処遇改善加算が加わり、2024年6月には3つの加算が「介護職員等処遇改善加算」に一本化されています。
保育分野では、2013年度の臨時特例事業を経て、2015年度に処遇改善等加算Ⅰ、2017年度に技能・経験に応じた加算Ⅱ、2022年度に加算Ⅲが導入され、2025年度に加算Ⅰ〜Ⅲが一本化されました。本記事では各制度の効果や金額の評価はせず、実施された事実と時期のみを整理しています。
まわりの職種と並べると|関連職種の月給比較

保育・介護のまわりにある職種を同じ物差しで並べると、2職種の位置がより立体的に見えてきます。ただし、勤務形態の違いには注意が必要です。
※ 公式データをもとに、可視化pedia編集部が独自に集計・編集したものです。
保育・介護のまわりにある職種を、同じ月給(きまって支給する現金給与額)で並べてみます。訪問介護従事者は281.6千円、幼稚園教員・保育教諭は291.5千円で、保育士・介護職員と近い帯に収まっています。准看護師は303.2千円、看護師は365.9千円で、看護師は全産業平均(370.5千円)とほぼ同じ水準でした。
ただし、看護師や准看護師には夜勤などの交替制勤務が広く含まれ、きまって支給する現金給与額には深夜勤務手当などの超過労働給与額も含まれます。勤務形態が異なる職種の比較では、同じ指標でも金額の中身が同じとは限りません。数字はあくまで同一定義での平均値として読んでください。
楓のまとめ|3つの観察事実

ここまで6つの図解で見てきた数字を、3つの観察事実に整理します。「安すぎる」のか「妥当」なのかという評価はデータからは決められないため、判断はデータを見たみなさんにお任せします。
6つの図解で見てきた数字を、観察事実として整理します。わたしは評価や予測を挟まず、令和7年賃金構造基本統計調査の公表値と、そこから計算できる範囲の事実だけを並べます。
保育士・介護職員の賃金をめぐる情報は、指標・調査・年がそろわないまま比較されることが少なくありません。同じ調査・同じ定義でそろえると、月額差は約8.5万円と約9.3万円、年収換算の差は約118万円と約158万円という具体的な数字になります。この差をどう受け止めるかは、読者のみなさん一人ひとりの判断に委ねられています。
よくある質問(FAQ)

給与の統計を読むときは、指標の定義・調査の体系・データの年の3点をセットで確認してください。この3点がずれると、同じ「差」でも別の数字になります。
Q1. 保育士や介護職員(介護士)の給料は、全産業平均とどれくらい差がありますか?
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の月給(きまって支給する現金給与額・男女計・企業規模10人以上・一般労働者)では、保育士28.6万円・介護職員(医療・福祉施設等)27.8万円に対し、全産業平均(産業計)は37.1万円で、月額差は約8.5万円と約9.3万円です。年間賞与を含めた年収換算(筆者試算)では、差はそれぞれ約118万円・約158万円になります。なお「介護士」という職種名は統計上はなく、施設介護は「介護職員(医療・福祉施設等)」、訪問介護は「訪問介護従事者」として集計されています。
Q2. 「きまって支給する現金給与額」とは何ですか?手取りとは違いますか?
基本給に諸手当や残業代などの超過労働給与額を加えた、月々に支給される給与の総額のことです。賞与は含まれません。また、税金や社会保険料を差し引く前の金額のため、いわゆる手取りより多くなります。残業代などを除いたものは「所定内給与額」と呼ばれ、同じ調査でも指標によって金額が変わります。
Q3. 記事やサイトによって「差」の金額が違うのはなぜですか?
主な理由は3つあります。第一に給与指標の違い(きまって支給・所定内・年収換算)、第二に調査の違い(賃金構造基本統計調査・介護従事者処遇状況等調査・民間給与実態統計など)、第三にデータ年の違いです。特に全産業側の比較対象が記事ごとに別の調査から取られていることが多く、同じテーマでも数万円から百万円単位まで数字に開きが出ます。本記事は令和7年賃金構造基本統計調査の確定値に統一しています。
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