
「電気代は自由化で安くなったの?」という問いには、自由化のタイミングと料金の推移を時系列で並べて見比べるのが近道です。制度の節目と価格の波形を1枚に重ねると、いつ・何が動いたのかが見えてきます。
2016年4月、電力の小売は家庭向けまで全面自由化されました。総務省の消費者物価指数で家庭の電気代をみると、全面自由化のあとの2016〜2020年はほぼ横ばいでしたが、2021年以降に急騰し、2025年の電気代の指数は118.1(2020年=100)と過去最高の水準です。電気代が大きく動いたのは、自由化そのものよりも、2021年以降の燃料価格の高騰や再エネ賦課金の上乗せと時期が重なっています。
本記事では、総務省の消費者物価指数・家計調査、資源エネルギー庁の電力取引報、経済産業省の再エネ賦課金告示などの一次情報を、長期推移・単価の内訳・賦課金の推移・自由化の段階・規制と自由の逆転・国際比較という複数の図解で整理します。資源エネルギー庁は、近年の値上げについて自由化と直接の関係はなく燃料価格の高騰や為替が主な理由と説明しており、本記事もその区別を保ったまま事実を並べていきます。
電気料金は自由化(2016年)の後、どう動いた?
自由化のあとは横ばい。2021年以降に急騰した。
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自由化前後の電気代|2016〜2025年の長期推移

長期の動きは、表よりも折れ線で見ると、横ばいの区間と急な立ち上がりの境目がはっきりします。自由化の縦線を引いて、その前後で波形がどう変わったかを並べました。
総務省の消費者物価指数(2020年=100)で家庭の電気代をみると、全面自由化の2016年は94.6で、2020年の100.0までは年平均でおよそ+1.4ポイントのゆるやかな動きでした。一方、2021年の100.1から2025年の118.1までは年平均でおよそ+4.5ポイントと、上昇のペースが大きく変わっています。同じ「自由化のあと」でも、2020年までと2021年以降で傾きが大きく異なるのが特徴です。なお、家計調査の電気代は2018年の家計簿改正で時系列に断絶があるため、本記事では断絶のない消費者物価指数を主な物差しに用いています。
上がったのは「何の料金」か|1kWhの内訳

「電気代が上がった」と一口に言っても、上がった部分は1kWhの中のどこなのか。単価を構成要素に分けて、補助の前後にあたる2つの時点で見比べました。
資源エネルギー庁の電力取引報によると、家庭用低圧の加重平均単価は2023年1月で約37.8円/kWh、2024年7月で約35.4円/kWh(激変緩和補助 ▲1.8円/kWh 適用後)です。このうち再エネ賦課金は2022年度3.45円/kWh、2024年度3.49円/kWhと、別の制度として一定額が上乗せされています。残りの部分(基本料金・電力量料金・燃料費調整額・税)には、燃料価格の変動に連動して動く燃料費調整額が含まれます。資源エネルギー庁は、近年の単価上昇の主な理由を燃料価格の高騰や為替としており、自由化の対象である小売部分(電力量料金)の変動とは区別して説明しています。
再エネ賦課金は15倍以上に|自由化とは別の上乗せ

賦課金は自由化とは別の制度ですが、電気を使うすべての人の1kWhに上乗せされます。年度ごとの単価を縦棒で並べると、増え方と、一度だけの低下が見えてきます。
再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の単価は、制度開始の2012年度に0.22円/kWhでしたが、2025年度は3.98円/kWh、2026年度は4.18円/kWhと、15倍以上になっています。経済産業省の需要家モデル(1か月の電力使用量400kWh)では、2026年度の賦課金だけで月額1,672円・年額20,064円の負担に相当します。2023年度のみ1.40円/kWhへ低下しましたが、これは買い取り費用の一部を市場価格で賄える「回避可能費用」が燃料高騰で大きくなったことによるもので、翌2024年度には3.49円/kWhへ戻っています。賦課金は固定価格買取制度(FIT)にもとづく仕組みで、電力システム改革による小売自由化とは別の制度です。料金が動く理由を分けて見る必要があります。
自由化は3段階|家庭が対象になったのは2016年

「電力自由化」は一度に起きたわけではありません。大口から段階的に進み、家庭が選べるようになったのは2016年です。自由化のタイムラインと、新電力の低圧シェアを上下に並べました。
電力の小売自由化は、2000年3月の特別高圧(大規模工場やデパートなど)から始まり、2004年4月・2005年4月に高圧(中小の工場・ビルなど)へ拡大し、2016年4月に低圧(家庭・商店など)まで全面自由化されました。資源エネルギー庁の集計では、家庭分野を含む低圧の新電力シェアは2016年のほぼ0%から、2020年に16.4%、2024年には約25.6%(販売電力量ベース)まで拡大しています。登録小売電気事業者は2025年1月末で747者です。家庭が事業者や料金メニューを選べる環境は、段階的に広がってきました。
規制料金と自由料金の逆転|2022年8月という転換点

自由化のあとも、経過措置として規制料金は残っています。燃料が高騰した時期に、自由料金と規制料金の高さが入れ替わった瞬間がありました。主要な時点を時系列で並べました。
全面自由化のあとも、需要家保護のための経過措置として規制料金(旧来の料金メニュー)が残されています。資源エネルギー庁の整理によると、燃料価格が高騰した2022年8月ごろ、燃料費調整に上限のある規制料金よりも、上限のない自由料金のほうが高くなる逆転が起きました。家庭用低圧の加重平均単価は2023年初に約37.8円/kWhとピークになり、その後は激変緩和措置(▲7円→▲3.5円→▲1.8円/kWh)によって2024年7月には約35.4円/kWhへと一部相殺されています。料金の水準は、自由化の有無よりも、燃料市況と補助の有無で大きく動いてきたことがわかります。
世界の中の日本|家庭用電気料金の国際比較

「日本の電気は高い」という声もあります。為替で円換算した家庭用の料金を主要国と並べると、日本がどのあたりに位置するかが見えてきます。
資源エネルギー庁がIEAのデータを基に作成した2023年の家庭用電気料金(円換算)では、イギリス45.1円/kWh、イタリア38.1円/kWh、フランス31.2円/kWh、ドイツ30.9円/kWhに対し、日本は24.4円/kWhです。韓国17.2円/kWh、アメリカ11.3円/kWhより高く、欧州主要国より低い中位に位置します。ただし各国で料金の算定方法や税・賦課金の扱いが異なり、為替レートでも水準が変わるため、これは厳密な順位ではなく傾向値として読む必要があります。
楓のまとめ|電気代の動きは、自由化と燃料・賦課金を分けて見る
「電気代は自由化で安くなったのか、高くなったのか」という問いに対して、本記事で並べた図解は、料金が大きく動いた時期と自由化の時期が必ずしも重ならないことを示してきました。制度の節目・料金の構成・市況の変動を分けて、観察事実として整理しておきます。
3つの観察事実を重ねて読むと、電気代が大きく動いた時期は、自由化そのものよりも、燃料価格の高騰と再エネ賦課金の上乗せ、そしてそれを一部相殺する補助の有無と重なっている形が浮かびます。「自由化で安くなったか」への答えは、どの料金部分を、どの時期で、どの指標で見るかによって変わる、という観察事実そのものが、いまの電気料金をめぐる景色を最もよく映しています。
よくある質問(FAQ)

電気代のグラフを読むときは、見ている料金が「単価(円/kWh)」なのか「請求額」なのか、そしてその時期が燃料高騰の前か後かを、セットで確認してください。
Q1. 電力自由化で電気代は安くなったのですか?
一概には言えません。資源エネルギー庁は、近年の電気代の上昇について自由化と直接の関係はなく、燃料価格の高騰や為替が主な理由だと説明しています。家庭の電気代(電気代の指数・2020年=100)は全面自由化後の2016〜2020年はほぼ横ばいでしたが、2021年以降に急騰し2025年は118.1です。料金が大きく動いた主な時期は自由化(2016年)ではなく燃料高騰期(2021年以降)と重なっており、自由化の効果と燃料市況の影響は分けて見る必要があります。
Q2. 再エネ賦課金は電力自由化と関係がありますか?
別の制度です。再エネ賦課金は固定価格買取制度(FIT)にもとづき、再生可能エネルギーの買い取り費用を電気の利用者で負担する仕組みで、小売の自由化とは制度が異なります。単価は2012年度の0.22円/kWhから2026年度の4.18円/kWhへと15倍以上になり、自由料金・規制料金を問わずすべての電気料金に上乗せされます。2023年度のみ、回避可能費用の高騰により1.40円/kWhへ一時的に低下しました。
Q3. 規制料金(経過措置料金)はまだ残っているのですか?
残っています。2016年の全面自由化のあとも、需要家保護のための経過措置として規制料金が継続しています。燃料が高騰した2022年8月ごろには、燃料費調整に上限のある規制料金よりも、上限のない自由料金のほうが高くなる逆転が起きました。その後は激変緩和措置(補助)によって単価が一部相殺され、2024年7月の家庭用低圧の加重平均単価は約35.4円/kWhとなっています。
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