
「認知件数が過去最多」という見出しは毎年のように出てきますが、40年分を1枚の線に並べると、増え方が一様ではないことが見えてきます。段差のある推移と、数え方が変わった年をあわせて確認していきます。
文部科学省の調査によると、2024年度(令和6年度)の小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は769,022件で、過去最多となりました。児童生徒1,000人当たりでは61.3件です。調査が始まった1985年度(昭和60年度)の155,066件、1,000人当たり7.6件と比べると、件数では約5.0倍、1,000人当たりでは約8.1倍にあたります。
ただしこの40年間に、調査上のいじめの定義は1994年度・2006年度・2013年度の3回変更され、調査の対象となる学校の範囲も広がっています。2006年度からは呼称も「発生件数」から「認知件数」に改められました。数字を並べる前に、数え方そのものが変わってきたことを押さえておく必要があります。
本記事では、文部科学省の調査結果と国立教育政策研究所の資料という一次情報をもとに、40年の推移、3回の定義変更、件数と率の伸びの差、学年別の内訳、発見のきっかけ、都道府県別の分布を6つの図解で整理します。
いじめの認知件数はなぜ増えたのか?
40年で過去最多。数え方は3回変わっている。
本記事は楓が調査・編集しています。掲載情報は執筆時点のものです。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
40年でいじめの認知件数はどこまで増えたか

40年分を1本の折れ線にすると、右肩上がりの一言では片づかない形が出てきます。40点すべてを打ったうえで、数え方が変わった年に印を添えました。
調査が始まった1985年度の件数は155,066件でした。翌1986年度には52,610件まで落ち、その後は2万件台から3万件台で推移します。1994年度に56,601件へ跳ね、また下がって2005年度には40年間で最小の20,143件を記録しました。
流れが大きく変わるのは2006年度です。124,898件と前年度の6倍を超え、2012年度には198,109件に達します。2016年度以降は毎年のように更新が続き、2020年度に一度517,163件へ減った以外は増加が続いています。
2024年度は769,022件で、前年度の732,568件から36,454件、5.0%の増加でした。校種別では小学校610,612件、中学校135,865件、高等学校18,891件、特別支援学校3,654件です。折れ線に見える3つの段差は、いずれも調査の定義や対象が変わった年度と重なっています。
数え方は3回変わっている

推移の段差がどこから来ているのかは、定義と対象の変更を年表に並べると輪郭がはっきりします。呼称が変わった年も同じ表に載せました。
1985年度の調査は公立の小・中・高等学校が対象で、呼称は「発生件数」でした。当時の定義は、自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実を確認しているものとされていました。
1994年度には調査方法等が改められ、特殊教育諸学校が対象に加わります。2006年度には国立・私立学校が加わり、呼称が「発生件数」から「認知件数」に改められました。定義からは「一方的」「継続的」「深刻な」という限定が外れています。
2013年度からはいじめ防止対策推進法に基づく定義が用いられ、インターネットを通じて行われるものが明記されました。高等学校の通信制課程も対象に加わっています。原典の注記でも、これらの年度では調査方法等を改めた旨が示されています。
国立教育政策研究所の生徒指導リーフでは、いじめは大人の目には見えにくく完全に発見することは不可能であり、教職員が認知できた件数は真の発生件数の一部にすぎない、と説明されています。認知件数という呼称は、この考え方に沿って用いられているものです。
件数と「1,000人当たり」で見え方はどう違うか

件数と率は同じ調査の中の別々の指標です。1985年度を100とそろえて重ねると、2本の線の開き方が見えてきます。
認知件数は学校が認知した件数の合計で、児童生徒1,000人当たりの認知件数は、その件数を在籍する児童生徒数で割って1,000人当たりに換算したものです。少子化が進む中では、件数が同じでも率は上がります。
1985年度を100として指数化すると、2024年度の件数は496、1,000人当たりでは807で、率のほうが伸びが大きくなっています。件数の約5.0倍に対し、率は約8.1倍という計算です。
なお769,022件を単純に365日で割ると1日あたり約2,100件、86,400秒を2,106.9件で割ると約41秒に1件という計算になります。小学校の1,000人当たり101.9件を35人学級に当てはめれば、年におよそ3.6件という規模感です。
学年別に見ると小学2年生が最も多い

学年別は13本の縦棒で並べると、山の位置と、一度だけ折れ線が戻る場所が同時に見えます。
2024年度の学年別認知件数は、小学1年生111,139件、小学2年生117,867件、小学3年生116,012件、小学4年生105,291件、小学5年生91,498件、小学6年生69,599件と続きます。最も多いのは小学2年生の117,867件です。
中学生以降は中学1年生70,062件、中学2年生44,108件、中学3年生22,455件、高校1年生10,074件、高校2年生6,931件、高校3年生3,934件、高校4年生52件となります。高校3年生の3,934件は、小学2年生の約30分の1にあたります。
学年が上がるほど減っていく流れの中で、小学6年生の69,599件から中学1年生の70,062件へは463件、約0.7%増えています。13学年の中で前の学年を上回るのはこの1か所だけです。なお各学年の件数には、特別支援学校の小学部・中学部・高等部が含まれています。同じ調査で公表されている不登校児童生徒数の推移と学年別分布も、あわせて確認できます。
いじめは誰が見つけているか

誰が見つけたかの内訳は、横棒にすると上位と下位の差がそのまま長さになります。認知した学校の割合も同じ図に置きました。
2024年度に何らかのいじめを認知した学校は30,204校で、全36,003校の83.9%にあたります。校種別では小学校91.0%、中学校86.6%、高等学校62.8%、特別支援学校45.6%でした。1校当たりの認知件数は21.4件です。
発見のきっかけを見ると、学校の教職員等が発見したものが468,227件で60.9%、教職員以外からの情報によるものが300,795件で39.1%でした。内訳で最も多いのはアンケート調査など学校の取組により発見された369,255件・48.0%です。
次いで本人からの訴えが150,747件・19.6%、保護者からの訴えが106,814件・13.9%、学級担任が発見したものが71,704件・9.3%と続きます。文部科学省は増加の背景として、一人一台端末を活用した心の健康観察の導入や、アンケートや教育相談の充実等による見取りの精緻化を挙げています。
都道府県で認知件数はどれだけ違うか

同じ年度の同じ調査でも、地域によって1,000人当たりの件数は大きく違います。実際の県の形に塗り分けて、面の広がりとして確認します。
2024年度の都道府県別1,000人当たり認知件数は、全国平均が61.3件でした。最も多いのは山形県の117.2件、次いで北海道104.5件、新潟県102.5件、山梨県92.6件、千葉県90.8件と続きます。
最も少ないのは愛媛県の19.1件で、長崎県19.8件、福井県22.6件、熊本県24.9件、群馬県27.0件が続きます。最大の117.2件と最小の19.1件では約6.1倍の開きがあります。
この数字は各都道府県で認知された件数を児童生徒1,000人当たりに換算したもので、いじめの発生件数を示すものではありません。いじめの日常的な実態把握としてアンケート調査を実施した学校は全国で97.6%にのぼり、取組そのものの有無で地域差を説明できる状況ではありません。
楓のまとめ|40年の増加は数え方の変化と重なっている

ここまで並べた6つの図解を、そのまま3つの観察事実に整理します。評価は加えず、確認できたことだけを残します。
「いじめの認知件数はなぜ増えたのか」という問いに対して、本記事で並べた図解は、推移の段差が定義と対象の変更年度と重なっていること、件数より率の伸びが大きいこと、学年と地域で分布に幅があることを示してきました。数字そのものに優劣をつけず、観察事実として整理します。
40年を1本の線として眺めると増え続けているように見えますが、その線は3つの定義のもとで数えた数字をつないだものです。認知件数は学校が認知した件数であり、発生件数そのものではありません。40年の推移をどう読むかは、どの年度の定義で数えた数字を並べているかによって変わります。同じく「認知件数」という語を用いる刑法犯統計は日本の治安は悪化したかで整理しています。
調査資料に記載されている公的な相談窓口
文部科学省は、子供や保護者等が夜間・休日を含めていつでも相談できる通話料無料の電話相談として「24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)」を実施しています。都道府県及び指定都市の教育委員会が24時間対応可能な相談体制を整備しており、電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関に接続されます。またSNS等を活用した相談事業も行われています。
出典:文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」について/文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
よくある質問(FAQ)

いじめの統計を読むときは、定義がいつのものか、件数と率のどちらを見ているか、認知と発生の違いという3点をセットで確認してください。
Q1. 認知件数が増えたのは、いじめそのものが増えたということですか?
文部科学省は増加の背景として、いじめ防止対策推進法における定義や積極的な認知に対する理解が広がったこと、一人一台端末を活用した心の健康観察の導入、アンケートや教育相談の充実等による児童生徒に対する見取りの精緻化、SNS等のネット上のいじめの積極的な認知が進んだこと等を挙げています。また国立教育政策研究所は、教職員が認知できた件数は真の発生件数の一部にすぎないとしています。
Q2. いじめの定義はいつ変わりましたか?
調査上の判断基準は1994年度、2006年度、2013年度の3回変更されています。2006年度からは呼称も「発生件数」から「認知件数」に改められました。2013年度からはいじめ防止対策推進法に基づく定義が用いられ、インターネットを通じて行われるものも含まれています。
Q3. 認知件数が多い学校は問題があるということですか?
文部科学省は、認知件数が多い学校について「いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインに立っている」と極めて肯定的に評価するとしています。また認知件数が零であった学校については、当該事実を児童生徒や保護者向けに公表して検証を仰ぎ、認知漏れがないかを確認することを求める児童生徒課長通知が出されています。
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